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かつて、この地で培われてきた循環の物語をいま、再び描き出せるだろうか。再び『めぐり』という雨を私たちは、この地に降らせることができるだろうか。まるで大きな湖のように、たおやかな水の風景が拡がる伊勢湾。湾の入り口に位置する伊勢の湊は、古来より重要な交易の拠点であり、農・林・水産という東海の産業と暮らしを支える循環の源であったという木曽川、長良川、揖斐川。大きな三本の川を下った船や筏が湾の内を行き交う、流れる、通過する。川をつたい、湾をつたい、伊勢の湊に集積されていく。流通の原点は、まさに水の循環の内にある。

やがて伊勢から鳥羽へと漕ぎ出た船は、太平洋という大海原に向かって出航し日本全国各地へと物資を届けていく。流通交易が産業を発展させていく。産業の発展は、人々と社会に豊かさをもたらしていく。この地のあらゆる源から技術と産業が生まれた。知多常滑の地に地下七百メートルにも渡り積層され、結晶化され、醸成された粘土から器が生まれ、やがて陶芸は窯業へと発展し、人々の暮らしを支える土管事業、住宅設備機器の製造へと繋がる。伊勢志摩、紀州、美濃、木曽、豊潤な森がもたらす潤沢な材木から造船技術、木造建築技術が生まれ、やがて高度な構造設計へと昇華され金属加工・自動織機・自動車・航空機といった製造技術へと発展を遂げていく

度重なる川の氾濫、大地震、台風。災害に対応し生きるための術として治水・港湾土木という土木インフラ技術が発展し生活を支えていく。この東海という地だからこそ生まれてきた。宝物のような人の知恵と知性が循環し集積している。技術は人々の知恵の集結であり、文化という資産そのものである。豊かさを享受し続ける一方で資源を使っては物を生み出し続け、そして当たり前のように廃棄する、埋め立てる。矛盾を日本中が世界中が加速させていくようになる。資源は無限にあるわけではなく有限である。枯渇することは、もう避けられない事実である。そして廃棄されたものは、埋め立てられ、燃やされ森や土や水や空気、地球そのものの循環と持続を妨げていく。

物の生み出し方、使い方、暮らし方、そして生き方そのものを私たちは今、変化することを求められている。すでに限界は目の前の現実として迫っている。自己の利益の追求のみに走り切った私たちは、だんだんと本当の豊かさであるはずの心を見失っていく。豊かさとは 一体何のためにあるのだろうかー。今だけを考えるのか。次世代を未来を考え行動を変えていくのか。かつて人々は数百年先を見据え、森と共に生き、樹木を育て、農を営み、食を守り、次世代へと引き継ぐ精神性と文化を持っていた材を余すことなく使い続けていく知恵も心もあった。かつて、この地で培われてきた循環の物語をいま、再び描き出せるだろうか。

再び『めぐり』という雨を私たちは この地に降らせることができるだろうかー。

 

本事業は、令和4年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金(中小企業知的財産支援事業)により 実施しています。

発行:株式会社大垣共立銀行 
協力:中部経済産業局
企画運営:株式会社ロフトワーク
広報協力:株式会社FabCafe Nagoya
取材協力:伊勢神宮神宮司庁 株式会社LIXIL INAXライブミュージアム ヴィソン多気株式会社 株式会社アクアイグニス 盛田株式会社 鈴渓資料館 株式会社小島組 長谷虎紡績株式会社 中伝毛織株式会社 葛利毛織工業株式会社 株式会社アサヒ農園 

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Design & Photograph: Takahisa Suzuki(16 Design Institute)
Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
Photograph: Yoshiyuki Mori(Nanakumo Inc.)

Director: Makoto Ishii(Loftwork Inc.)
Director: Wataru Murakami(Loftwork Inc.)

Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
Producer: Kazuto Kojima(Loftwork Inc.)
Producer: Tomohiro Yabashi(Loftwork Inc.)
Production: Loftwork Inc.
Agency: OKB Research Institute

 

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