Discussion | 2023.03 update

東北大学名誉教授、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長
石田 秀輝さん
東京大学大学院, 工学系研究科教授
梅田 靖さん
住友商事株式会社 執行役員 
兼 住友商事グローバルリサーチ株式会社 代表取締役社長
住田 孝之さん
kaimen Prototyping 代表、プロトタイピング研究家
長﨑 陸さん

モデレーター
株式会社ロフトワーク アートディレクター 小川 敦子

長﨑:セッションの前半はこんなことを考えてきたんですけど、先生方いかがでしょうか?例えば、こういう考え方とか進め方は、どうでしょう?

住田:風土記の話、非常に面白かったですね。面白かったんですが、一つ気づいたことは、水の話と土の話をされたんですが、水と土は全然違うなと思いました。水と木は、循環するんですが、土は循環しない。土は掘っちゃって、もうない。つまり循環してないわけですよ。これは化石燃料と一緒なんですね。掘り尽くしちゃったらおしまい。だから、本当は土はどうやったら循環できるかを考えなきゃいけなかったんですね。これまでの人たちも。それは今我々がやってしまっている化石燃料と同じことをやっていたんですね。それが、とてもサーキュラーエコノミーとの関係で、非常に示唆的で面白かった。だけどやっぱり風土記のようなものに表れる土地の文化とか土地の強み、それが産業であり経済活動の基盤だし、強いところだからいろんな発想も出てくるということは、なんとなくわかったかなっていう感じがしました。それが一つ。
 それから今日のお題はサーキュラーエコノミーなんですけど、私の頭の中では皆さんが言ってたこととも通じると思いますが、エコノミーで考えちゃうとバイアスがかかるので、サーキュラーソサイエティという「社会」で考えた方がいいなと思いました。冒頭に石田先生がおっしゃった社会のデザインですよね。経済のデザインじゃなくて社会のデザインにしないと、みんなが当事者にならないかもしれない。社会のデザインだからこそみんなが本当に当事者なんですよね。風土記というのは、まさに社会のことです。そこがすごくあるなと思いました。
 それを思ってたら石田先生のお話でも昔に未来があるとおっしゃっていたように、江戸時代は世界に誇る循環社会ですよね。いろんなものを何度も使って資源を大事に使う。これは昔はできたわけですね。日本は。今はサーキュラーエコノミーってヨーロッパでしょって言われちゃうんだけど、ほんとは、「今更気が付いただけだろ、ヨーロッパは」というのに近いところもあるんです。これは全然日本人は卑下する必要はない。まさに石田先生がおっしゃったように、昔にヒントがたくさんあるんじゃないかなっていうことを感じます。
 そして、この東海エリアと言えば、式年遷宮がありますよね。あれこそ循環型の持続可能性に完全に基礎を置いた仕掛けです。それを編み出したわけですから素晴らしい歴史があるわけです。先人に学ぶことってたくさんあります。今の課題かもしれないけど、学ぶことは昔にたくさんあるというのは今日皆さんのお話をお聞きして感じたところです。

長﨑:土の話は確かにそう。アンバサダー企業の中で㈱アサヒ農園さん、もともとは反物、織物、木曽三川の水でできた布を振り売り、棒を担いで片側に布を引っ掛けて売ってる横で、もう片側には種を吊るして一緒に種売りをしていたところから業態を拡大された。彼らの扱うF1種と言われるものがあって、次世代に種を残さない形で設計がされているものがあるので、種を再収穫して次世代に循環させるということは、事業上なかなか難しいところが法整備的にもあるんですね。という時に何を循環させよう?とずっと考えてはって。水辺とか船とかそういった風景の中で、じゃあ私たちは土を循環させます、船で巡りながらいろんなものを集めながらそれで土をつくっていきます、と。種を芽吹かせるための土のレシピはいっぱい持っているから、それを伊勢湾を巡りながら実践するのはあるかもね!という話がありました。ですので、確かに住田さんの土は掘り尽くしたんだから循環してないじゃんというご意見にはせやなと思いました。

小川:そういう意味でいうと、産業の一つであった農業というのは、循環する最たるものですよね。

住田:そうですね。やっぱり土と農業も木も水もそうなんですけど太陽のエネルギーを受けて再生できるものかどうかというところが最大のポイントですよね。地球上に注いでいるエネルギーはおおむね太陽のエネルギーですから。このエネルギーを使って再生できるものはすごく循環性が高いということですよね、きっと。

長﨑:今日先生方のお話を聞きながら長﨑もワークショップの内容を回想しつつ考えてたんですけど、今のサーキュラーエコノミーの活動って世の短絡的な解釈の中では、やもすると原点回帰というかネイチャー回帰みたいな、ヒッピーに戻るのかとか、懐古主義かみたいな、今ある発明品を捨てて原始時代に戻れっていうことかいなという話に聞こえなくもないと思っちゃうところはあるんですよね。あと長﨑は別の仕事では大量生産品をつくったりしているんですが、サプライチェーンを変えていくとか、調達を変えるとか物流ラインを変えるって、マジかよみたいな。将来のためにやらなあかんし、やっていきたいけど、これ変えたら従業員の給料払われへんみたいな、経営者としてのトレードオフもどうしても出てくるところがあるというところで、そういった背景で「間抜け」のお話とか、いろんな概念を提唱されているのだと長﨑は理解した。
 今日この場で投げかけてみたいのが、「やもすると自然回帰、原点回帰、懐古主義と誤解されかねない、サーキュラーエコノミーに対する観点」と、「経済性大事やし利回りを取るために各々トレードオフ中で苦労しとんねん」という、その価値観の狭間をどういうふうに乗り越えていったら、ここにいる方々と一緒に実装を加速させていけるのか?っていうところに先生方からお知恵やアイデアをいただけたらと思ってます。

 

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梅田:お題が難しすぎてよくわからなかった。とりあえず感想からお話すると、小川さんの話を聞いてて、この辺りが昔どういうふうに社会がダイナミックに動いていたのか非常によくわかって、そのつながりが面白かったです。今、種の話をされて、いろいろなお話を伺っていると、新しい価値の見直しみたいなことをやられてるんだろうなと思いました。それは非常に重要なことだと思うんですが、逆にこのマップ(54P掲載図解参照)って初めて見た時にすごく不思議だなと思ったのが、なんで風土記から始めてるんだろうということと、風土記から始めて歴史的なものを見ながらもう一回東海圏のことを考え直すのはすごくよくわかるんですけど、なんでそこにサーキュラーエコノミーを繋げなきゃいけないのか、そこの構造がすごい面白いと思ったんですが、なんでそういう発想に至ったのか教えていただきたい。

長﨑:経済合理性だけではない理由で、ちゃんと企業同士に出会ってお付き合いしてもらいたいからだと思います。
 サーキュラーエコノミーについては長﨑は専門家ではないので認識が間違っていたら改めていただきたいんですけど、サーキュラーエコノミーの活動って、野蛮なたとえかも知れませんが婚活に近いところがある気がするんです(笑)。
 婚活って、まず自分のことを経済状況含めて自己分析して、身だしなみを整えつつ「自分ってこういう人間なんだよ、〇〇は苦手だけど、〇〇な価値観は大切にしたいと思ってます」って自分の大事なところ、足りないところも含めてわかりやすく視覚化・言語化して伝えられるようにする。そこまで整える。それで初めて、自分がどんな価値観を持った相手と出会いたいのかが明確になる。そうじゃないと婚活イベントに出向いても、高年収や外見だけにとらわれた、将来的に関係が破綻しちゃいそうな、あまり健やかだと言えない相手との出会いになってしまいますよね。
 サーキュラーエコノミーも自己分析から始めますよね。サーキュラーエコノミーを構想する手続きとして、自社の経営状況や事業価値の源泉、バリューチェーンやサプライチェーンのあらゆる循環とコストの部分を洗い出して「ここにボトルネックあるよね」を視覚化・言語化することから始まる。その足りないところを理解した上で、お互いに補完し合うことのできる他企業と出会い、手を取り合ってやっていく。自己分析がちゃんとできて初めて、誰と組めるのかが明確になるし、大切にしたい価値観も共有できる。オープンなネットワークの中で、お互いをきちんと大切にできる企業同士の出会いこそが重要だと思うんです。サーキュラーエコノミーをテーマに、「東海圏の皆さん、さあ出会いましょう!」と雑な婚活パーティのような立て付けでワークショップしたからって、例えば本日ここに参加いただいている三十社がいきなり全員共通の価値観を深く共有しながらボトルネックを補い合える、一つの家族のようなすごい緻密なバリューチェーンを描くのは無理な話です。純粋に東海圏のいろんなステークホルダーでそういうことをやっちゃうと、価値観を共有していないから、唯一全員が納得できる「経済合理性」だけで自分らだけが儲かってバンバン前に進んで利回り上げる活動に終始しちゃう気がするんです。経済的なメリットだけでお互い手を組みましょうって。でも途中でうまくいかなくなったら全部弾けちゃって、別に東海圏でやらんでもええしって話になるのは残念だと思います。
 で、風土記の話でいくと、純粋に経済合理性、エコノミーだけでサーキュラーエコノミー実装の手続きを見ていくと、婚活シーンで年収は?御家柄は?私に足りない何を埋めてくれるの?ってまず聞いちゃうみたいな、経済合理性を追求した結婚相手探し、それもひとつかもしれませんが、そういう話が出てくるかもしれない。そうすると将来的に破綻しちゃう。
 じゃあ婚活パーティーのテーマが大切にしたい価値観ベース、例えばアウトドア、自然を愛する人に共感する人で集まって話をしてみようとか、そういういろんな価値観、テーマでやっていけばいいかなと思ってます。なので、経済合理性だけで判断しなくてよくなる、東海圏に縁のある企業同士が一緒に大事にしたい価値観を共有しながら、きちんと出会うことのできるテーマをこさえてあげるという意味での風土記の話なんですが。

住田:助け舟を出すわけではないですが、風土記というのは私は意味があるなと思ってるんです。なぜかというとサーキュラーエコノミーを実現したい時に、どういうサーキュラーが自分たち得意なんだっけというのがないと、東海サーキュラーエコノミーである意味がないわけですよ。日本全国どこでもいっしょになっちゃうから。だけど東海サーキュラーエコノミーを考えるなら、ここでなきゃできないことって何?ここが強いことは何?それはみんなが共通して持っている文化であったり技術であったり知恵であったりという、ある意味この地域全体としての知的財産みたいなものなわけです。なんで知的財産と言っているかというと、他の人が簡単に真似できないからです。
 つまりそれに根ざしたサーキュラーエコノミーは他の人たちが簡単に作れないソリューションを提供するかもしれない。ここが多分ひとつのポイントなんじゃないかなという感じがしたんですね。

長﨑:助かりました。最初よくプロジェクトのメンバーで小川さん達と話したのは、例えばオランダ。サーキュラーエコノミーの提唱国の一つでもあるんですが、ポルダーでチューリップが育っていると。あそこは人間の身体から排出する有機物、つまり排泄物由来の堆肥は人間の口に入るものには使えないという法整備があるので、コンポストの行き先がないんですよね。野菜栽培には。でもポルダーがある。そこで栽培しているチューリップにその堆肥を利用すればいい花の色になる。それってオランダの風土記に根ざしたサーキュラーエコノミーがあるわけで。国民性も含めて。それを東海圏でやろうとした時に、そもそもポルダー存在しないしなぁという話から今回風土記が始まった。

 

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小川:先ほどの住田さんがおっしゃった知的財産の話をしたいのですが―。私自身はこのプロジェクトそのものが実は私にとって最大の難題だったんですけど。知財とサーキュラーエコノミーがどうやってつながるんだろうというのが、そもそも、すごく難しかったんですね。でも今日ずっとお昼から住田さんとお話をさせていただいて、私の中でピタッと繋がった瞬間があった。知財ってなんですかって、住田さんにお聞きした時に「人間の創造的活動により生み出されるもの」と。

住田:知的財産基本法にそう書いてあるので大丈夫です。

小川:知財というと、特許とか、意匠とか、そういうところにすぐ発想が行くので、サーキュラーエコノミーをどうつなげるんだろうって、このプロジェクトの発起人の矢橋に何回も聞いたんですけども。知財の本当の意味を知ると、「人間の創造的活動により生み出されるもの」という文言、これがまさに循環の起点になるんじゃないかなと、ストンっと来ました。その辺りのお話をお願いできますか。

住田:まさにその通りだと思うんですけど、さきほど長﨑さんが言われたことも関係するんですけど、復古主義かという話がありましたが、復古主義では絶対にできないんですよ。なぜかというと江戸時代に帰れと言っても江戸時代と今では人口が全然違うんですね。江戸時代と同じ生活を仮にしたとしても多分サーキュラーエコノミー的にいって回らない。それ以降、我々が積み上げてきた知恵を使わない限り、こんなに多くなってしまった人口の中で循環型で活動しようと思ってもできないんですね。だから昔に帰るだけではダメなんです。昔に参考になるものはあるかもしれないけど、それを今風にやらないといけない。そこで使うのがまさに知的創作活動によって生み出されたものであり、さらにこれから知的創作活動によって何かを生み出さないといけない。こんなに大きな人口はもはや生態系の許容量を全然超えているわけですから。超えている中でなんとか折り合いをつけていかなきゃいけない。今七十億人いる人口を急に十分の一にできるわけでもないし、すべきでもない。そんなことができない中でなんとか折り合いをつけていかないと地球が破裂するという中で、まさにこれまでやってきた知的創作活動、さらにこれからの活動をフルに使わないと、サーキュラーエコノミーは実現しない。

小川:それから、ちょっと長﨑さんが、今回開発してくださった仕組みなんですけど。ここに、新たな経済圏=「知財」の創出であると書いてくださったんですが、この辺りはどういう意味だったか思い出せますか?

長﨑:そこまでダイレクトに書いてはいないんですけどね。未来の経済圏のプロトタイプ=知財であると。こちらの方がより正確かなと思います。これの抜粋(54P掲載図解参照)が右上になるので。

小川:私から少し補足させていただくと、このエリアってたくさんのシーズ=技術がたくさんあると思います。シーズというものを活かしていけるか。今までの世代間の問題もあると思うんですが、どうしても「今だけ」を中心に、マネジメントしてる方々が考えていくと、現状の課題の延長線上で発想してしまう。だけど、出てきたものですごくなるほどって思ったのは、設計できる次世代のタレント―この人たちがいかにニーズを掘り起こしていくかによって、もともとあるエリアのシーズがどんどん活かされるんじゃないかというのを表している図なのかなと、解釈してるんですけど、その辺りはどうですか?

長﨑:そうですね。さっきのセッションの最終的なところでも申し上げた通り、最終的には人を集めたいというところはあります。共感してくれる仲間を集めたい。彼らは儲かりますねんとか高年収ですねんとか週休四日ですねんというスペックではもう振り向いても来てもくれないんですよね。経済合理性だけじゃ自分たちを選んでくれない。彼らは自分や私たちが想像している以上に利他的だし、一見、不思議な活動をしてると思います。
 彼らがじゃあ乗っかってみよっかと思える社会に向けて今を更新していかないといけない。そのテーマが意外と人間性だったりとか、いわゆる自然、それも作為的な自然ではなくて、非常に動物としてのヒトが快適性を感じられるものとか、社会的・心理的安全性を感じられるコミュニティとか。そういったものを持続させるために利回りも追求しながらやっていくねんっていう夢を、器として新たな経済圏として描く姿勢やアクションに対して共感して、こっちを見てくれるというところは非常に感じていますので。そういった背景での話になってます。

小川:なので、今日、風土記の話をすごいたくさん話したんですけど、それには理由があって。みなさんの東海愛を視線で感じたので、それに対してお応えしなければと思って。多分放っておいたら一時間くらい話しちゃってたと思うんですけど。私、この話を二〇代の方に話すと聞いてくれるんですよね。このプロジェクトに対する「共感」が、ちょうど私のいま働いているロフトワークはインターンを積極的に入れてるんですけど、十九歳の男子学生にこの話をしたときに、すごい勢いでもっと詳しい話を教えてくださいってきました。それくらい、共感をしてくれて。でも、彼曰く―まだ若い世代の人たちってお金がないし、自分が発言していいかどうかっていう権利が与えられてないという意識があるらしいんですね。いわゆるZ世代の子たちは、発想がすごく豊か。「次世代の経済エンジン」とダイアグラムには書いてあるんですけど、社会をつくっていくのは、新世代の方々なのかな、私は思っています。その辺り、石田先生は、沖永良部島でもすごく若い方々の育成に携わられてると思うんですけど、先生いかがですか?

石田:どこからしゃべっていいのかわからないので―また元に戻りますけど、風土記っていうのはすごく大事な原点ですね。思考の原点。ただ風土記っていうのは過去のものであって、それを土台に、どういう未来の社会デザインをするのかがすごく大事。おそらく未来の社会デザインをする人たちがひょっとしたら新世代タレントなのかもしれないけど、タレントっていうのが本当の才であれば、未来の社会デザインが描けないとさっき梅田先生がおっしゃった環境プロバイダーが存在できない。だから風土記という原点をバックキャスト視点で観て、未来の社会デザインを描き、そのターゲットに向かっていろんな企業が参加して、やるぞ!となったときに、じゃあどうやって具体的に進めるのですかという企業を結んでいくのが環境プロバイダーでいいのかな? そんな概念だと思うんだよね。だからこそ、風土記から東海地区の揺るぎのない未来の社会デザインってなんですかっていう議論がきちっとできてないと、サーキュラーエコノミー以前のディスカッションになってしまう。そこが大事だと思いますけどね。
 ホメ・ロスのオデュッセイヤには過去の定義があるんですが、未来は背後にあって見えないもの、過去は時間的にも空間的にも前にあると書かれています。見えない背後を見るのではなく前方にある既知の過去をしっかりと読む、バックキャスト的視点ということですが、そうすれば現在とその前方にある過去を押して、背後から迫りくる未来をよりよく生きることが出来るということです、風土記は過去の原点なのです。

小川:では、あえて風土記から入ったのはよかった?よかった!いいねが出ました!


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石田:江戸時代は良かったって、江戸時代には戻れない。でも、江戸から学ぶことはできる。人間には生活価値の不可逆性という欲があるからね。一度得た快適性や利便性は容易に捨てられないわけですよ、だから、それを肯定したうえで未来を描かねばならないのですよ。風土記から何を学んで、学んだことを未来の形にどうデザインし直しますか? それが僕が言った多色性デザイン。多様性じゃなくて多色なんですよ。そのデザインに基づいて、今のいろんな企業が参加しますって言った時に、それをどうコーディネイトしていくかがさっき梅田先生がおっしゃったすごく大事な切り口ね。環境プロバイダーという概念だと僕は勝手に理解してるんですけど。

梅田:おっしゃる通りで、どういうことを目指すんだっていうのがないと、手だけ繋ぎましょうと言ったところでなかなか出てこないので、やっぱり将来像としてサーキュラーエコノミーっていうのは一つの切り口。将来サステナブルな世の中の一つのエレメントなので、そこでどういうふうに東海地区でサステイナブルな世の中を作っていくかっていうところから、その中で我々が何をできるのかっていう話があるべき論としては出てくるんだと思います。今長﨑さんの話を聞いてたら、面白いなと思ったのは、知財と風土記とサーキュラーエコノミーはやっぱりつながっていて、現状ではない思考をシェイクするためにどういう素材がいいかっていうのを考えた結果それが出てきたというところ。シェイクしたところから何が出てきたのかを聞かないとちょっとまだよくわからないところもあるんですけど、今の社会デザインの将来像っていうところに踏み込むと、有機的に組み合わさっていくんじゃないかなっていう期待がありますね。

長﨑:ありがとうございます。本当なら今日の会議において、他にもいてもよかった主役の方々はいろんな事情でなかなか難しいんですけど、各アンバサダー企業の人たちに出てきてもらって、それぞれ自分たちがどんなことをやったかを実際に発表してもらったり、実際に模型つくってきましたとか、もので見せるみたいな、つべこべ言わずに感じてもらって、それにアグリーするかディスアグリーなのかが一番かと思います。なので、次からは自分たちの今回つくったプロトタイプに閉じこもってしまわないように、どんどんちっちゃく早く実装して、自分で判断するんじゃなくて皆さんから判断してもらって進んでいく。そうするとモニャモニャ最初は曖昧でブワッとしてるものが、しばらくすると全員が「それすごいね!」ってなるようなものに固まっていくのかなって思います。

住田:今の話と重なるんですけど、さっき梅田先生がおっしゃったパーパス経営が今の話でも大事だと思うんです。結局石田先生の社会デザインもそうだと思うんですけど、パーパスを共有できるかどうか。パーパスが共有できてないとアライアンスしてもしょうがない。パーパスが共有できてればアライアンスもできるし、知財の問題っていうのが比較的円滑にいく。パーパスも合わないのに単に寄ってきました集まりましたっていうだけだと、自分の持っている知財を守ることばっかり考えるんですね。出そうとしない。競合に知られたらまずいから出さないとなるんだけど、パーパスが共有されてると、この目的のためだったら自分たちはこういうのを持ってるのでこういうことができないかとポジティブなアプローチができるようになる。ここのところがものすごく大事なんだろうと思うんですね。
 特にこの東海の場合は、さっきからの話じゃないですけど、構造設計が得意だとかそういうところにも根ざすわけですが、モノづくりが強いんですよね。モノづくりは特許とか知財ってすごく言うんですよ。とにかく出したがらない。ちょっとでも見せたら何やってたんだお前って会社から怒られるみたいな。そういうことで怯えている人が多い。そこをパーパスが一緒だからっていうその安心感のもとにやっていけば、もちろんいろんなルールは作っておいた方がいいかもしれないけど、全く同じ人たちが集まっても違うアプローチが可能になるんじゃないかなと思いますね。それとモノづくりに関していうと、実はこれも梅田先生がおっしゃった通り、モノの時代じゃないんだと思います。ただ、実はサーキュラーエコノミーを実現しようと思うと、最後はリマニュファクチャリングが典型であったり、設計のところが肝になったり、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルもそうなんですけど、最後は本当の意味でのモノづくりのノウハウとか知恵がないと、実現できないんですね。モノづくりの技術が主役じゃないけど、実現しようと思ったら不可欠なんです。これも東海サーキュラーエコノミーの一つの特徴なんじゃないかなと思いますね。

小川:今すごく大事なお話だったなと思っていて。パーパスとか、「何のために」というのがあってこそ、いわゆる知財と言われる技術であるとか、ノウハウが、本当の意味で知財になる。それが、人間が創造したクリエイティブな活動によって生み出された最大のものなんじゃないかと思うのですが。

住田:まさに、どういう時に、人はコラボレーションできるかという問題に行き着くわけですけど、普通にやっているとさっき申し上げたように知財はブロックすることになることが多いんです。しかし、たとえばトヨタ自動車㈱さんが一部の特許についてはオープンにしますよと言う。なんでそれをオープンにしていいと思っているかというと、特定のパーパスのために使うからいいと言っているわけですよね。こういう目的のためなんだから、この特許を使ってくれと。したがってパーパスに共感さえできれば、いろんな人が自分の持っているもの、知財も含めて前向きに使おうと思えるんですよね。それができるかどうかは、まさに強みのところをどうやって使っていくか、さらにはコラボしながら使っていく、これこそが知的資産経営と言われるような、強みをどう活かすか、どう使うかっていうところの真髄だろうなと思います。

梅田:ちなみに私はモノづくりはすごく大事だと思ってますし、それが本業ですし。今の住田さんのおっしゃったパーパスの話は、日本で一時期流行ったオープンイノベーションがうまくいかなかった理由ですよね。パーパスを共有するとこのチームでもすごく有機的な発展ができるんじゃないかな。そういうメッセージがこもってたと思いました。

住田:その通りでございます。


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小川:そういう意味で言うと、この前段のプロセスを詳しく、前半で、お伝えできていなかったですね。ずっと、長﨑さんがおっしゃっていた「デザイン経営の基本は、イノベーションだけ考えるんじゃなくて、ちゃんとブランディングとセットで考えなきゃいけない」ということ。それで、各社に自社の歴史から改めて見直していただいた経緯がありましたよね。

長﨑:最初に、プロジェクトを進めていく時に不安だったのが、中途半端なプロセスを踏んで、結局、結果出ないし、人材教育でいいかみたいな感じにプロジェクト成果を締めくくっちゃうのが一番怖かったんですよね。あとはイノベーション的な新しい話を考えていく中で、新しいイノベーションの種はできたけど、これ、うちらの会社がやる必要ないよねっていうケースも結構出てくるんです。というときに、新しいアイデアをいろんなステークホルダーのことも考えながら出すのは大事だが、自社でやる必要とか意味合いとか、自社のリソースを投入する意味、それを通じての企業価値の向上も絶対に大事。この両輪をしないとデザインっていうファンクションを経営資源として運用することはできない。という話がデザイン経営宣言の中でも言及をされているところなんですが、それを頭に入れて、まずみんなで力を合わせて風土記をつくりました。ワークショップだけの時間じゃ足りなかったので、たとえば一次リンクの企業がどんな歴史を歩んでいるか、時間をとって見ていきました。デスクトップリサーチや資料に当たってもらいつつ、さらに深く風土記をつくっていきました。その前提で、アンバサダー企業の方々が、どんなバリューチェーンになってて、それが周囲とどんな関わりを持ってるか、風土記とどこまで合致してるかしてないかを図で表してもらっています。さらに例えば㈱ファーストさんはこういった形の位置関係があったりとか、あとは自社が作った最初の商品は?とかなぜ創業者はそれを作ったのか?会社が一気に伸びるきっかけになった売れ筋商品とかサービスはなんだったのか?それに対して今はどんな主幹事業が大黒柱になっているのか?今の主要事業が創業者の思いや意図とつながっているのかいないのか。つながってないならその理由は?理由には合理性や歴史があるので。そういったものを表していきました。じゃあそのストーリーがどう風土記と結びついているのかをまずは各企業さんにつくってもらうと、皆さんサーキュラーエコノミーを考える前のそもそも俺らって何者だっけ?何が売りでどんな奴らだっけ?なぜこの事業をしてるんだっけ?のWhy?やパーパスが少し明らかになってくる。それがブランディングのプロセスの中では一つ大事なステップになるので。それをしっかりと皆さん言語化・視覚化できた上で、それと風土記を紐付けてどういう新しいアイデアを考えていくのかっていうことを、あとはあの手この手でいろんなことをしながらアイデアを作って行ったということになります。

小川:なので、例えば、このプロジェクトオーナーの㈱大垣共立銀行さんは、歴史的に、本当に水難の事故がすごく多かった、川の洪水が多かったから、人助けし、支援をしたりというところから銀行が発展していったという話を、まずお聞きしました。このアイデアは全部お伝えできないんですけど、今回のワークショップに㈱大垣共立銀行の二十代の若手の方々にもご参加いただいたんですよね。皆さんから出していただいたのは、まさに、今先生方がおっしゃったパーパス。何のために、というのが人助け。
 それを最初に紐解いていたからなのかは聞かないとわからないんですけど、結果的に出てきたのが、今、ソーシャルファイナンスと言われる、社会のために何ができるかという発想で、いろんな地域通貨であるとか、さまざまなアイデアをたくさん若手の方が出してくださったんですよね。だから、本当にこのやり方をしていったからこそなのでは、と。途中、全員が全体をずっと見ていたわけではなかったと思うんですけど、皆さん、プロジェクトの合間で共有しあって、どんどん深掘りして、アイデアを出されたんじゃないのかなと思ってまして。そういう意味では、会社のパーパスとつながってると思うんですが。

長﨑:そうですね。㈱大垣共立銀行の若手の方々は、序盤ワークショップのアイデアの中では、結構メンタルヘルスの話をされてました。世の趨勢を受け取っての発言だったと思うんですけど(笑)。くたびれてるところがあるとか。他のチームからも、㈱アサヒ農園さんも種とか土の循環の中では、船の上で菜園をつくることで心がくたびれた人が動植物と触れ合うことで心を立て直してほしいという意見もありました。場全体がメンタルヘルスの話をしてたわけではなかったんですけど、どちらにせよ人間性に話題が入っていったのは確かなところ。そういったところでの共通性は見えました。

石田:僕が全部理解してないからなんだけど、そこまでの話はすごくいいんだけど、やっぱり未来の社会デザインを描く時に、どうしても逃れてはいけないのが制約なんですよね。これから地球環境制約がますます厳しくなる。それを肯定して、大垣共立銀行さんがどういう未来の社会デザインを描くのか。そこと現在をつながないとだめです。過去のよかったねの足し算では絶対に未来は描けないので、その部分はものすごく大事なところなんですね。多くのコンサルティングをやっていて多くの企業の人たちが失敗するのは、過去の成功体験をもう一回再現しようとする。政府も同じですよね。だからろくなことにならない。そうじゃなくて、未来は今の延長にはないんだ。でもその未来を、未来の子供達にバトンを手渡すには、未来の社会デザインには制約が必ず付き纏う。その制約が何かを明確にして、それを正面から受け止めないと絶対に描けない。そこは大事にしてもらいたいと思います。それがバックキャスト思考の原点なので。

小川:そうですね。おっしゃる通り。捉え方なのかなと思っています。今まで、本当にあまりダークな話をプロジェクト中にしてこなかったというのもあったんですけど。地球の資源が枯渇する寸前というところで、改めて、今一人ひとりが問われている。石田先生がおっしゃっていたように、まさに「個」が問われているのかなと思っているんですが。それは、本当に制約とか、何か危機が来ないと、そのような発想にはならないのかなと思っているんですけど、どうでしょうか。

住田:まさに、制約をちゃんと考えないといけないわけです。そうすると今までみたいにきちっと最初から答えが綺麗に作れると考えては絶対にダメなんですよね。そこでは、さっき長﨑さんが言っておられたように、プロトタイピングの手法は極めて優れていると思います。プロトタイピングをしながら、デザイン思考で、作っちゃ壊し作っちゃ壊し、直しでもいいんですけど。制約を意識するからこれじゃダメだとどこかで気づく。そこを乗り越えた次のプロトタイプを作ってみる。そうすると今度はこっちから見たらダメだろうという話が出てきて、また次それを乗り越えるものが出てくると。これをやり続けないとダメなんです。これまでの時代は一つの答えに必ず行き着いていたから、一直線で答えに行くことを企業は求められていたけれど、これからはそうじゃない。これがデザイン思考であり社会デザインでありということじゃないかなと思います。したがってこれまでやってこられたやり方で続ければ、石田先生がおっしゃる部分をなんとかかいくぐれるのかなという感じはしますね。

長﨑:今出てきているアイデアをベースにして、それをこれからもどんどん育てていきたいと思ってるんです。おっしゃる通り、まず制約条件を決めた上でっていうのもYESだと思うんです。そうなった時に例えば循環プロバイダーの中でどういったインセンティブを与えるかというところは非常に大事かなと思いまして。例えば今ある事業体の中での三年五年の中期計画とかそこでの利益率とかそれに対する資本とコストの投入具合といった尺度でやっちゃうと絶対にうまくいかないのは皆さん想像ができると思うんですけど、循環プロバイダーがそういうトレードオフにハマらないように、どんなインセンティブをこれから実装しすればいいのか、アンバサダー企業の方や新しく参加される企業の方々とどんなふうに考えていけばいいでしょうか。実務担当としてワナワナしてるところではあります。

住田:インセンティブの作り方はいろいろあると思います。一番究極っていうか、一番強いインセンティブという意味では規制やルールを作るというのはあると思いますけど、その手前でやれることもいろいろある。たとえば政府の方からなんらかの補助金なり助成金を出すとか、あるいは銀行の方での融資の条件だとか、そういうもので選別や優遇をしてもいい。あるいは別の立場の方が、こういう取り組みですごく秀でたところを表彰するとか、いろんな形で頑張ってるね、いいことやってるね、、という人たちを一生懸命盛り立てる。それはもちろんお金の面でも名誉の面でも盛り立てていくことが大事ですよね。それによって今度は、こいつこんなことやってんだってことが知れた時に、また同じようなパーパスで集まってくる人が出てくればそこに新しいアライアンスが生まれるかも知れない。そういった形で一つ一つ手作りですけど、政策の方も試行錯誤、融資の方も試行錯誤でやっていくしかないと思いますね。

小川:まさに、実装に向けてやっていく時に、一社ではできない。社会全体でいろんな企業さんもそうなんですけど、省庁もそうですし、あと住田さんがおっしゃってたように、経済だけで括ってしまうと、そこに参加できるステークホルダーはすごく狭くなってしまう。だから社会全体となってくると、本当に一人ひとりの市民が、どうやってこれから良くしていきたいのかというところも一緒に考えながら、循環させていかないと、また経済の話? また何かで儲けたいの? みたいな話に陥ってしまうのかなと思っていて。もちろんお金が循環していかないと全員が生活できなくなってしまうんですが、だけどそこだけに偏ってしまったのがこれまでの戦後、日本が走り過ぎてしまった結果なのかなって思うんですが。この辺り石田先生どうでしょう。

石田:それは、有形無形の価値があって、これまでは有形の経済という価値だけを評価してたんだけど、それだけでは企業は存続できない。社会から淘汰されてしまうことは明らかです。それが今のESG投資という価値観に変わってきているわけですよね。だから、そこの部分をしっかり見つめる事が大事、僕は儲ければいいと思うんですよ。経済的には儲かるし社会からも素敵な会社だなってたくさんのファンが生まれる。その両者を同時に進行させるのが、SX、サステイナブル・トランスフォーメーションでしょう。だから経済成長を否定するというのは資本主義は悪いと言うのと同じ言い方で評論でしかない。企業が存続するためには利益を出さなきゃいけないんですよ。利益を出すけど有形無形の利益の形があって、回り回って利益になりますよというところとダイレクトに利益が出ますよっていうところの両方を持っている。それをきちっと社会に説明できなければ経営はできない。だから両方を持つことが大事です。

 

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小川:ここまでお話をさせていただいて、会場の皆さん、どうでしょうか。聞いてみたいことがあれば是非。

Q.モノづくりっていうことで先ほど人工物の生産量がものすごく積み上がってというお話があったんですけど、この地域はモノづくりをして輸出をしてその交換として金銭を得るということなんですけど、そういう意味では生産した人工物の重量でそれを回収する責任を負うというような形でCO2の排出量じゃないですけど人工物の重要で管理して企業なりに責任を負わせてそれを循環させる仕組みというかそういう考え方はあるんでしょうか。

梅田:今のところはあんまりないかもしれませんね。ただバランスを取らないといけないというのは言われていて、それが規制に直結するかというのはまだわからないところかなと思ってます。CO2の世界では規制される動きがありますね。それと同じような規制がサーキュラーエコノミーに入ってくる可能性は十分にあると思いますね。もう一つあるのは、リサイクルというと重量で測ることが現状では多いのですが、重量じゃなくて質の話になってくると、ますます話が難しくなると思うんですけど、いろいろなものの質とか価値のバランスを取れよっていう話になってくるんじゃないかなと思っています。

石田:重量物を動かすと当然カーボンフットプリントは上がります。一方では、カーボンニュートラルを目指すことは共通のターゲットとしてはっきりしているので、そこをどうやって考えるのかがまず第一ですね。さらには来年からはネイチャー・フットプリント、ネイチャー・ポジティブっていう概念で生物多様性の定量化、TNFDっていうのがもう決まってて、タスクフォースが昨年の六月から動いている。来年には生物多様性に関する定量的な制約が具体的にかかってきます。そういう意味でいくと、物差しがどんどん出来上がってくるので、その物差しを使って、まず測る。どうやってそれを小さくできるかということを一生懸命考えるのが、おそらくベリーベーシックな第一歩でしょうね。

住田:したがって、売るっていうことに対する概念がどんどん変わっていくと思います。売り切ることができなくなってくる。しなくなってくる。そうすると作ったものを最後まで管理しなきゃいけない。重さで管理するのかもしれませんが。売り切ってもう責任ありませんっていうことが難しくなる仕掛けができてくるでしょうね。

Q.今パネルディスカッションの中で出てきたサーキュラーエコノミーで二つの概念があるのかなと。一つは航空機エンジンのサブスクのようなものと、もう一つは私たちがワークショップで描いてきたような風土記に基づく地域の特技を活かしたものと。知財の活用という中で、たとえば大企業のような会社だとパーパスの共有に加えて、プライム市場といったところで経済的なバイアスがともなって、より知財の共有化してパーパスに向かってサーキュラーをっていう流れが描けるのかなと思うんですけど、一方でそういったバイアスのかかりにくい地域企業がサーキュラーをつくっていって、その中でブランディングして、経済的な合理性が伴っていかないと、地域企業は参加しにくいと思う。地域企業も積極的に輪に入っていけるような仕組みづくり、戦略としての知財の活用について、先生方はどうお考えですか。

住田:結局コラボレーションするときに知財の扱いをどうするかということなんだと思うんですね。これは先ほど申し上げたようにパーパスに共通性があればある程度心理的なハードルが下がるんですが、だからと言って全然なくなるものではないです。だから一つのやり方として言えば、もともとそういうコラボでやるときに参加企業間で新しい知財が生まれたり、あるいは自分の知財を出してそれが改良されたりした時に、どういう扱いにするのか、一種の契約というか雛形のようなルールを作っておく。そこに参加する企業間で事前に合意して、それに基づいて作業をしていく。今の時代非常に有難いのは、いろんな会話を録音したり録画できたりするから、何か新しいアイディアができたとしても後から検証ができるわけですね。
 今までだと声の大きい人が俺がやったんだとかサプライチェーンの上の方の人が自分のものだ、文句あるか、みたいに言うこともあったのでしょうが、これからは記録さえ取っておけば最初に決めたルールで揉め事が起きたらこの人に解決してもらおうねというところまで書いておけば、かなり安心感を持ってできるでしょう。貢献が10:0ということには普通なりませんから、いくばくかの分け前は取れることになって安心感が高まると思います。

Q.今から集まってる皆さんでコラボしたり新しいプロジェクトを始めていくと思うが、僕らが見えていたり世の中に広まっているようなサーキュラーエコノミーの成功事例があると思うんですけど、そういうのはうまく行っている事例ばっかり目に入ってくる。そうなったときに、そういった成功事例の第一歩目、今から僕たちが作ろうと思っているプロジェクトの一歩目でいい事例とかこういうステップを踏めばいいというのがあれば教えてほしい。

梅田:なかなか難しい質問。成功事例として喧伝されているものも大きく見えているだけであってそんな違いはないと思っています。先ほど前のご質問の方がタイプ分けされてましたけど、どこかの側面に引っかかるものを作ればいいのであって、これがサーキュラーエコノミーだとかそうじゃないというのは後で出てくる話。自分たちがちょっとかかってるなと思うものを動かしていく。まさにさっき住田さんが言いましたけど、やり方は広い意味でのプロトタイピングだと思うんです。スモールスタートでやってみて、失敗するかうまくいくか、失敗したらバージョンアップしていくことしか方法はないんじゃないかなと私自身は思っています。

小川:そういう意味でいうと成功しなきゃいけないとかそういうことじゃないんじゃないかと。十一月に登壇いただいたサーキュラーエコノミー研究家の安居さんもおっしゃってたんですけど、Learning by doing=やりながら、学んで良くしていく精神がこれからの時代、大事なのかなと感じました。

Q.専門はインパクト投資とかインパクト評価をしながらスタートアップのエコシステムづくりをしています。なのでESG投資のさらに先にあるのかなと思っています。日本政府が社会環境に悪影響を与えている会社を規制することを促したいと思っているんですけど、それをするための一番のキーは何なのか。日本政府はめちゃくちゃ遅い。

住田:私も政府が長かったものですからちょっとお話をします。インパクト投資とか社会環境問題に関して、いいとか悪いとかっていうのは、政府が判断するのは危険だと思います。例えばヨーロッパでは、タクソノミーという形で、これはいいこと、これは悪いこと、みたいな基準作りがされてるんですけど、これは極めて危険です。なぜかというと、これはいいんだよって言っている人がその人の価値観でいいと思うものがルール上いいとされちゃうからです。本当にそれが正しい正しくないというのは、誰かが丸バツつけられるものじゃなくて、同じ価値観に立ってる人にとってみればこれは正しいし、違う価値観の人にとってみれば正しくないかもしれない。原子力の話は典型です。原子力は結果的にヨーロッパの規制の中ではグリーンな方に入る。制限はありますけど。それはドイツ人から見たらとんでもないことに見えるわけです。政府みたいな人がこれを決めることになると、何でも国が主導するお隣の国と同じような意味で非常に危険なことになりかねない。これはやっちゃいけないんだぞ的なことを政府が決めるというのは、どうかと思います。私はどこの国の政府でも、そんなに信じてないので。それよりもインパクト投資をやっているグループAがこれがいいんだと思って投資する、グループBは違う観点からこれがいいと思って投資する。そして、こういう基準で判断してるぞ、というのをどんどん開示していく。そうすれば、どれが良さそうかなっていうのを多くの人が考え、こういう考え方もあるんだと気づく。まさに多色型の社会のデザインが私はいいんじゃないかなと思います。


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小川:ここで、このプロジェクトの発起人でもある、矢橋の方から、話してもらいたいと思います。

矢橋:㈱ロフトワークのCOOをやりながら㈱FabCafe Nagoyaの代表をしている矢橋と申します。今日は皆さんありがとうございました。
 何度も話は出てたんですけど、実装とか実践の年にしたいというのが個人の書き初めにも書きまして。今年の年末に二〇二二年は実践できたねって振り返りをしたいと思ってます。さっきからずっと話を伺いながら、どこから始めるといいのかなっていうのを改めて考えながら思ってたんですけど、たとえば先行して進んでいくのは先駆者利益がありそうだと捉えればどんどん先にやろう、規制ができる前にやろうとなるかもしれないし、逆に言うと、それでしくじるとやだなとか、あるいはさっきも出てましたけど経済合理性を追求した結果今のエコシステムが出来上がっているのだとすると、みすみす、それを落としてまでそこにトライをして利益を落とすことは経営者として踏ん切りがつきにくい面もあると思う。そうするともう少し様子見してみんながなんとなく成功事例が出てきてからそれうちもやりましょうという方が明らかに経済合理性が高い気もする。となった時に、どうしましょう。実装とかスタートを切るためにどこからやってくんだろう。みなさんだったらどういうふうにスタートしていくのかを思いつきでもいいので。

石田:たくさん失敗をしてきました。でもやっぱりやってみなきゃしゃーない。あんまり大きなプロジェクトにはしないで、とりあえずやってみる。とりあえずやってみて、プロトタイピングの繰り返しですよね。やってみて、今の社会とどれくらいずれてるか。僕も最初に水の要らないお風呂を作った時は二十年くらいずれてましたね。ちっとも売れなかったです。今頃になって、そんな素晴らしいものと言われるんですけど。時代とのバランスはどうしても取らなきゃいけない。でもやっぱりこれだと思うものはやってみる。ほんのちょびっとでいいから。そういう繰り返しだと思います。

梅田:二番手になるのが一番経済合理的だっていうのは茹でガエルの話。それで三十年経ってしまったと思ってます。私もスモールスタートをオススメします。本業をある日突然変えるのは無理なので、スモールでも兎に角やらないと負けるだけだと思ってます。

住田:私もスモールスタート派ですが、ちょっと今思いつきで申し上げると、たとえばスモールスタートでいっぱい失敗するわけですよね。いっぱい失敗するのは決して悪くない。だけど社会全体として考えると失敗したことが共有された方が本当はいいのですよね。同じ失敗を別の人がしなくてよくなる。そうだとすると失敗事例をたくさん集めて、ただどんな失敗がありますかっていうことを聞きにきた人からはお金を取る。ある種、知的財産みたいなものです。失敗の知的財産みたいなもの。失敗したんだけど、実はなんか儲かるみたいなことになると、これが一番いいのではないかと思います。

矢橋:いいですね。今のすごくいいアイデアだと思ったのでやりましょう。あとアンバサダー企業の会社見学を秋くらいに何社かさせていただいて、その時に経営者の方と話をしていると、サーキュラーエコノミーがテーマだとご存知なので、ここが理由でできないんだよねというのがたくさん出てくるんですよくあるじゃないですか。新しい取組みをするための打ち合わせをメンバーと話していると、出来ない理由がいっぱい出てくる。どうやったら出来るか?を考えようよという会話をよくするんですけど、出来ない理由を考えるのは皆んな得意じゃないですか(笑)。だったらサーキュラーエコノミーにできない理由を住田さんが仰るようにみんなで出してシェアをして、出しただけインセンティブになるような構造をうまく作る。そうすると出来ないって言ってるプロセスを、「これうちで出来ますけど」って人が出てくると、その人はビジネスチャンスを得られる。これをコミュニティの中で実施していく、、そんなのはありかなと思ってます。

石田:面白い。

矢橋:じゃあそれもやりましょう。ということで、多少締めに向かいますけど、今日のイベントでは「勉強になりました」というアンケート回答は要りません(笑)。もちろんこれだけの先生方にお越しいただいているので勉強にはなると思います。でも、それだけだと物足りない。「始めないといけない」と思ったとか、「実行のヒントをもらった」という回答が1人でもあればいいなと思っています。そして、冒頭で小川が申し上げました通り本事業では大垣共立銀行さんに筆頭に立っていただいて、経産省からの活動資金のご支援をいただいてスタートしています。ですから、この活動は今月・来月で終わる話ではなく、ここから数年かけて活動を広げ仲間を増やしながら続けていきたいと思っていますので、先ほど出たアイデアも含めてぜひ実行していきたいです。ですので、登壇者の方もオンラインの方もお越しいただいている方も、こういうことをすればいいんじゃないか?という意見を無責任でもいいので色々聞かせてください。その上でやれるところをどんどん見つけてやっていきたい。そして、そのための経済的なスキームも作っていきたいので、ぜひ皆さんご協力をお願いします。それから、土屋さん(㈱大垣共立銀行 常務)せっかくなので、ぜひここで意思表明を兼ねたご挨拶をお願いできませんか?

土屋:㈱FabCafe Nagoyaができてから一年少々。なぜ我々が運営に参画したかという話から。銀行のビジネスモデルは、融資だけでは成り立たなくなっているのが現状です。融資というのはビジネスのいわゆる川下のところで、金利が何パーセントでどれくらいの資金が必要なのかという関わり方が多く、金融機関としての価値を出しにくい。それをもっと川上から、お客様と一緒に色々な事業を作っていくところから始めないとビジネスモデルが成り立たないと考え、㈱FabCafe Nagoyaへの参画を決めました。「デザイン経営」がキーワードになるだろうというのが、一年ほど前の二〇二〇年九月。デザイン経営をベースに、どのようにデザイン思考を㈱ロフトワークさんと一緒にお客様にご案内できるかを探っています。その基本線は今も変わっていないのですが、デザイン経営を考える際にサステイナビリティの要素も重要だという認識がどんどん高まっているように感じます。サステイナビリティを前提に考えるという流れは、我々地域金融機関にとってのチャンスだと思っています。なぜなら、まさに東海圏の経済をいかに循環させていくかという思考は、我々は伝統的にも、本能的にも分かっているからです。それは、取引先、株主、従業員、個人のお客様というステークホルダーが、ほぼすべて東海圏で完結しているからです。ですから、これを循環させていくことが㈱大垣共立銀行のサステイナビリティに繋がり、地域のサステイナビリティに繋がるということだと考えています。「地域循環型社会の担い手になり、持続可能な地域をつくっていく」これが我々の使命です。そこに環境という制約が加わり、環境を守りつつ、そして人・モノ・金・情報を地域に循環させることにチャレンジして生き残りを図っていきたいと考えています。今回を機に、さらに我々が目指す方向性を具体化して一つひとつ進めてまいりますので、今後とも皆さまの知恵を借りながら、この地域循環型経済のあり方を描いていきたいと思います。

矢橋:小さく始めるというヒントもいただいたので、ぜひこのあと実証実験的に実践を始めたいと思います。ぜひ皆さんどんどんご参加ください!

 

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※東海サーキュラーエコノミープロジェクト公開ディスカッション 「東海エリアの循環型経済のあり方を描く」講演録をもとに加筆修正。

 

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Design & Photograph: Takahisa Suzuki(16 Design Institute)
Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
Photograph: Yoshiyuki Mori(Nanakumo Inc.)

Director: Makoto Ishii(Loftwork Inc.)
Director: Wataru Murakami(Loftwork Inc.)

Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
Producer: Kazuto Kojima(Loftwork Inc.)
Producer: Tomohiro Yabashi(Loftwork Inc.)
Production: Loftwork Inc.
Agency: OKB Research Institute

 

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