未来会議 | Vol.2 | 2023.03 update

ゲスト
一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長
石田秀輝さん
株式会社LIXIL INAXライブミュージアム主任学芸員
後藤泰男さん
椙山女学園大学教育学部3年
笹野はな香さん

ファシリテーター
株式会社ロフトワーク アートディレクター 小川敦子

 元 株式会社INAX CTOでもあり、現在は一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長を務める石田秀輝さん、株式会社LIXIL INAXライブミュージアム主任学芸員 後藤泰男さん、椙山女学園大学教育学部3年 笹野はな香さんの3人をゲストに「豊かな社会と未来を描く」をテーマとしたディスカッションを行い、多重視点型の議論を展開。ファシリテーターは、株式会社ロフトワーク アートディレクター 小川敦子が担当した。

前編はこちら

 

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テーマ3 :社会と文化。新しい共生社会の在り方とは何か?

小川:では、次のテーマに入りましょう。社会と文化という視点から、新しい共生社会の在り方とは何か? について話をしていきたいと思います。人と人との繋がりや触れ合いが現代社会においては非常に希薄となり、格差や分断や孤立感から社会の問題が多く起きています。このような現状を改めて見つめ直し、一人ひとりが自然や共同体やローカルという土台に根付き繋がり、尊重し合い協働しながら生み出していく新しい共生社会の在り方とは何か? について、ここでは議論を深めていきたいと思います。

後藤:笹野さんに聞きたいのは、今大学3年生ですよね?ということは大学に入って3年間コロナ禍で過ごしてきたわけですよね。同級生と騒いだり、コンパなんかを経験していないのだと思うのだけど、人と人の繋がりについて笹野さんが、どう思われるのか興味があるな。

笹野:初めの1年生のときは、友達という友達は、まだできない段階ですよね。リモートで、個人戦で、ほとんど相談がなく、なんとなく連絡して課題どう? と聞くことはあるのですけど、遊びには行けない。連絡を取るのは携帯やパソコンだから、本当にコミュニケーションが少ない中で、1人の時間を楽しむ。1人でどうするか、それこそ周りで聞くのはゲームとかでオンラインでつながる。コロナという中でどう生きていくかという感じですね。もうその状況に置かれたら、仕方ないし、変えられないし、ルールだし、じゃあどうするかと言ったら、高校の友達とのリモート飲み会もあるし、オンラインで繋がるとか。それこそ制限された中で、どうやっていくかということでした。

後藤:ずっと、ちょっとした不便さの中でコミュニケーションしてきたわけですよね。リモートで会っていた人たちと、実際に会うじゃないですか。その時はどう感じるのでしょうか。今までリモートで会っていた人がリアルになったときに、思った通りだと自然に入ってくるのか、リアルとリモートは全然違うよという人もいるだろうし。

笹野:どうだったかな。喋り方を忘れちゃう感じです。しばらく実際に会っていないと、人と喋るのってどうだったっけ? となるし、会えて嬉しいし、実際に喋れてすごく楽しいし、制限された分 開かれたときにすごく嬉しい。

後藤:我々の3年間というのは、今までリアルでずっと付き合ってきた人が、3年間だけリアルでは付き合えない、お話できなかった。そして、また再びやっと会えたねという感覚なのですが。はじめからリモートでしか話したことのない人が、はじめてリアルで集まるのって想像ができない。あと大学生って、例えば、椙山の大学生の校風、文化がありますよね。文化は継承されるのだろうか? それとも新しい文化ができるのだろうか? かわいそうだなと思いながら見ているのですけど、それは受け入れているのでしょうか。

笹野:受け入れるしかないという感じです。でもどうしようもできないので。

石田:そういうとき、精神的にはどうなのでしょう?

笹野:私は比較的1人で楽しく過ごせるのですが、1人で長時間授業を受けるのは、やはり、すごく辛いですね。リモートの場合、ちゃんと理解できているか確かめるためにも、先生たちも課題をたくさん出さざるを得ないので、ただ、それを学生が1人でやるとだんだん滅入ってしまう。授業を受けるのが大変でした。精神的には、本当に人と会えないのは辛いんだと実感しつつ、制限は制限だし、やらなきゃいけない。単位をもらえないと留年してしまうので、とりあえず、リモートでみんなで支え合ってという、コミュニティを作っていく感じですね。

後藤:やっぱり支えあうんですね。リモートの中でも。それで会ったことのない人たちで、リモートの中でお友達ができて繋がっていくわけですか?

笹野:置かれた場所で、ちょっとした制限で、なんとか生きていくんですけど。教育学部は基本的に対面で授業をしたいということだったので、少しずつ対面が増えて会うことが多かったです。

小川:笹野さんから見て、椙山女学園の「人間になろう」という教育理念はどう思いますか?

笹野:そうですね…「人間になろう」は自分自身を強く持つということです。中学校から女子高で椙山に来たのですが、「人間になろう」って何なんだろうとずっと思っていて。自分の芯を持っていろいろできるようになってほしいということを大学では聞きました。芯を持っていろいろな人と関わりを持っていく、他の人の意見に惑わされないとか、自分で前に進めるように、女性だけど進んでいけるというイメージだと思います。

小川:私の個人的な解釈では、社会性ということでもあるのかなと思っています。人間は一人では生きていけないので、まず自分の軸をきちんと定めた上で、相手のことも理解して、他者と一緒に自分も高め合っていくという、そういう社会性という側面もあるのではないかと思います。直接喋っているから触れ合っているということではないと思っていて、ちゃんと対話をして相手を理解するとか、自分の考えを深めていく、そういうコミュニケーションが取れている人もいるだろうけど、すごく少なくなってきていると思っていて。椙山だとそういうことを教えてくださるし、先生方もそういうことを思っていらっしゃるから、もう少し豊かなコミュニケーションがあるのではないかと思うのですが、外に出たときにそうではない場面もあると思います。笹野さんの世代の方は、社会をどのように見ているのでしょうか。

笹野:社会に対しては、個人個人で、深入りをしないイメージです。様子を見て関わりにいくというイメージ。私が小さい頃は近所づきあいがあって、できたら、おすそ分けをするというのが田舎なので普通でした。幸田町という岡崎のあたりです。近所づきあいが多くて、子ども会もあったのですが、名古屋に出てみると個人的には冷たい感じがして。しっかりガードがあって、オープンに関われる環境ではないのかなというイメージです。バリアをくずして、やっと仲間になれる。

石田:話を聞いていて思うのですが、本来、人間はコミュニティを作りたいはずです。その繋がりを切るものは何ですか? という議論をした方がいいのかもしれない。
 20万年前に我々ホモサピエンスが生まれるのですが、7万年前に前頭前野の突然変異が起こりました。前頭前野の成長が遅れるという突然変異です。普通、霊長類は3歳ぐらいで前頭前野が完成するのだけど人間は前頭前野の成長が遅れて完成するのに20歳ぐらいまでかかります。そのお陰で、その間にいろいろな経験をしたことが役に立つという進化をし、そこで初めて言語が喋れるようになったり集団で効率よく作業をするようになる。コミュニティはそこから本格的に始まっているんです。だから我々は本能的にコミュニティを持って生きていることが原点にあるんだね。
 昔、田舎では当たり前にあったもの、それを切っているものは何ですか? という考え方もあると今思っていて、例えば、モノがあり過ぎて1人でも生きられるようになってしまったということは結構多いと思いますが、その結果何が切れてしまったのだろう。
 一つは、お金でいろいろなことが片付くようになってしまって、言葉がいらなくてもモノが手に入るとか、あるいは、モノが溢れすぎていて人に頼らなくても生きていけるということは大きいし、だから、そういう意味では、ちょっとした不便さがあるとコミュニティはできやすいのだと思うんです…。ちょっと教えてとか、誰かこれ助けてとかという「間を埋める」視点であって、決してこの指止まれというような浅い概念ではない?

笹野:確かに、調べたらネットでいくらでも繋がれます。

小川:若い方々を見てて思うことがあり。本来、人間は考えも生き方も価値観も違うわけだから、複数でも1対1でも人と人が対立をすることはあるはずです。その対立場面から話をしていって、新たに生まれてくるものは実はたくさんあるのですけども、その対立する、コンフリクトが起きるということ自体を若い方々はとても恐れているように思います。

 

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石田:それはどうして?

笹野:面倒くさいし、怖いからだと思います。

石田:それを面白いとは思えない?

笹野:思えないですね。

石田:それは、トレーニングなのだろうか。それは脳でいうと、右脳の古い部分キャラクター3というのですけども。左側は守りの脳で、右側は面白がる脳なんです。左の脳は過去の経験をベースにして安全に行こうとします。右側は、時間軸がなく、見たものが面白いかどうかだけの判断をします。私なんかは間違いなく右側がものすごく活性化されて、違う意見が出たら楽しくて仕方がない。何だそんなのもあるのかと思ってしまうのだけども、左側だと、それは受け入れられない、拒否する、といった状況になってしまうのですが、そういうことが多いのでしょうか?

笹野:女性同士だと空気を読んで、ここでやらかしてしまったら・・・と思うことがあります。それくらい、今は人間関係に対して、すごく敏感になっているかもしれないです。

石田:それには答えられないな。でも明らかに若い人は左脳が強くなっている。

小川:みんなで解決していこうとすると、必ず話し合わないといけないですよね。いろいろな人の意見を入れていくときに、意見が言えない人は、すごく考えていても、それを口に出すことを怖がってしまう…。

石田:それを仲介する人が大概いるのだけどね。右の脳の古い脳が元気なのが。

後藤:だから1対1なんでしょうね。ネットの世界って。だから、コミュニティになれないんですよ。あの人がこういったということに対して横から口を出すって、なかなかできないじゃないですか。

石田:SNSで思ったことを書こうとしても、なかなか文章にならないしね。

小川:匿名性があると心理的安全性が保たれるので、刺すような言葉を言ってしまう人も逆に今とても増えているように見受けられますね。

石田:それは面と向かっては言えないということ?

小川:言えないんです。怖いから。

石田:例えば趣味の世界だとか、同じ方向を向いている中でも怖いということがある?

笹野:そういう場がなくなってしまって。余計に怖くなって言えないですね。

石田:五感の劣化か…。

小川:右脳という、感性がないと社会を有機的に構成していくのは、難しいのかもしれない。

石田:本能的には、絶対繋がりたいはずです。求めている。でも、それを今みたいな言い方をすると、同じ方向を向いた“なあなあ”しかなくなってしまうね。クリエイティビティがなくなってしまうね。

笹野:ないかもしれない。それでいいよね、となってしまいがちですね。

石田:それは、由々しき問題だよね。

小川:もしかしたら、今日、この場は、世代がバラバラだから。笹野さんは普段よりも、話しやすいのかもしれない。

笹野:言いやすいですね。

小川:性別、国や年代、立場は違う方が言いやすし、議論もしやすいですよね。今日の議論の状態そのものが、私にとっての、一つの発見になりました。私自身も、違う国の人たちがいたり、同一ではない状況で話をする方が、すごく最近楽しいなあと思います。発見に満ちていて。言葉は直接的にわからなかったとしても、心で理解し合える。

笹野:普段は、とりあえず誰かが意見を言うのを待って、ああそういう感じで言えばいいのねって様子を見てしまいます。今日のように1人だったら、素直に話せる。

石田:本来コミュニケーションをとりたい、コミュニティを作りたいのが人間の本能なので、繰り返しになりますが、そういう所を切っているものは何なんですか? というような議論は、やはり必要ですよね。それがお金や物だということは明らかですが、他にも先ほどの五感といったことが、その要因になっている可能性もありますね…。

小川:先日放映されたニュースメディア*で、社会学者の宮台真司先生が、本来、想像力や感性がないとコミュニティはできない、社会は成立しないと仰っていました。以前、先生が仰った、「多様性は多色である」ということを前提にすると、一人ひとりの違いを受け入れ合う共同体・コミュニティというものが成立するのでしょうか。


*NewsPicks WEEKLY OCHIAI「いま、言論の力とは」2022/12/21 放映

 
石田:多色性を受け入れられるのは、やはり右脳の古い部分、キャラクター3を鍛えることをして、要するに、何でも意見が出せて、出したものに対して受け入れられる。一度、そういう価値観を作らないことには、何ともならないね。

小川:議論の前に、後藤さんがミュージアムについてのオリエンテーションをしてくださったときに、どろんこ遊びとか笛を吹くアートイベントに1日で300人集まったという、お話し。映像も拝見しましたが、すごい不思議な光景でしたね。でも、とてもワクワクしました。あのようなことを本能的に人は求めているということでしょうか。

石田:お祭りのトランス状態になるのと同じようですね。

後藤:何人集まるか楽しみでしたが、実際には、定員の300人を超えたときはびっくりしましたね。

小川:お祭りとはそういうこと。

石田:日本のお祭りはね。フェスティバルではなくて。日本のお祭りはそう。絆を確かめるのが、日本の祭りです。準備のために何回も集まって議論してお酒を飲むじゃないですか。そのときに絆の確認をしていくわけです。確認を何回もして、トランス状態にもっていく、それが日本の祭り。フェスティバルとは違う。フェスティバルは楽しみですよ、フェスティバルは一発でしょう。日本の祭りは何度も何度も、それを主催する人たちが集まって何回も何回も打ち合わせをする。そこで、コミュニティというか絆ががどんどん深く強くなって行くのだと思います。

 

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対談テーマ4 :人間と文化。人間の尊厳を大切にする社会。

小川:では、最後のテーマです。人間と文化。人間の尊厳を大切にする社会をテーマに進めていきます。安らぎや、生きる喜び、楽しさ、感動。公平さを重んじることや他者を思いやる心。このような豊かな人間性は、個々の豊かな人生や人間の尊厳を大切にし合う豊かな社会のあり様へと繋がっていくと思います。これらを生み出す土壌となるのが、「文化」だとすると、改めて「文化」とは何か?ここでは、議論を深めていきたいと思います。
 また、日本古来からある文化の捉え方として、人間は自然の一部であり自然と共生する、そのような解釈もなされています。これからは、進歩、発展ではなく、「循環、再生」という考え方が重要になってくると思いますが、循環型の社会の在り方についても、さらに議論をしていきたいと思います。
 まず文化というものについて改めて、石田先生いかがでしょうか。

石田:繰り返しになってしまうけども、あらゆるものの循環だと思います。あらゆる物の循環が価値あるものだと認めること。どちらかというとアニミズム型の社会思想になってくる。お天道様に申し訳ないというようなこと。そんなこと言わないよね、今。イメージが湧く? そういう価値観が文化を作っていくのではないかな。それを見えるものにしたのが、例えば枯山水であり、能であり、歌舞伎である。それらは見える化したものでしょう。だから、その原点にあるものを、あらゆるものの循環を大事にするという思考、八百万の神的というか山川草木国土悉皆成仏というか、そういうような概念だと思います。それを場所場所で折々に視覚化していく。民藝も、そうだと思います。自然というものを土台に精一杯心を込めて作る。そうすると作品に心が映し出される、それが柳宗悦が言うような民藝という可視化にもなっている。抽象的すぎるかな?

後藤:我々が大切にしている文化活動はいわゆる企業文化と表現されるものとは違うものだと認識しています。我々が活動している文化は「人間の本質の掘り起こし」なんだろうなと思っていて、今、石田さんが循環とおっしゃったので、循環と掘り起こしがどう違うのかなと今迷路に入っているところです。企業文化と我々が言っている文化って違うものですよね。

石田:企業文化というのは歴史でしょう。それは、その企業を作り上げてきた歴史観だよね。それが企業文化。

後藤:歴史観だとすると、新しい文化を作ろうということは新しい歴史を作ろうという、全く違うことをやろうということなんですね。

石田:未来を作っていくということでしょう。ホメロスのオデュッセイアに24の詩があるのですが、そのうちの3つは未来について書いてあります。未来は背後にあって見えない。だから未来を見るためには目の前にある過去を正しく押していく。そうすると未来に繋がる。これがバック・トゥ・ザ・フューチャー、あの映画の原題はここから来ている。ホメロスのオデュッセイアに書いてあることだけが正しいとかではなくて。日本でも未来を見ることを先を見るという表現をしますが、先というのは古いことだよね。先輩だとか先生だとか過去のことなわけですから、先を見るということは過去を見ること。だから、企業文化は、まさに過去から作ってきたものを未来に繋げること。正しく過去を過去に押していってあげると、それがおそらく企業文化という概念になる。

小川:企業ブランディングをするときには、企業の過去、歴史を振り返りながら、そこにある価値を掘り起こして見定めていく作業は非常に重要ですよね。

石田:我々は良い祖先になれるか? という視点を持つことが、どんどん企業文化を正しい方向に持っていく。

小川:企業でやってきたことを一度掘り起こして、そうかこういう価値があったんだと、まず発見することが大事ですよね。会社を継承していくためには次の世代へバトンを渡していかないといけないですし、未来のために、この継承してきた価値を次にどう活かしていくのかという発想になっていく。それがイノベーションや未来のことを考えていくことに本質的に繋がるのだと思います。

鈴木(グラフィックデザイナー兼本プロジェクトでは撮影も担当):経済と文化が両輪であることを表すのに、経済を囲むように、文化が在るという構造になっていますが、そうではないと思うんですよね。例えば、INAX=僕だとするとね、真ん中に文化があって、その周りに友達がいて、その周りに経済がある。真逆なんですよね。文化は個人に落とすと自分自身のことを指していて、自分の興味があることに対して人が付随してきて、その人たちの関係によって外側に経済が出来上がっていくイメージですね。

小川:本来は、個人の想いから派生した営みを継続して、支えていくためであり持続していくための仕組みとしての経済が周りにくるから、逆になるのでは? ということですよね。鈴木さんのお話は。企業でも、そうなるのではないでしょうか?

後藤:要するに企業は利益を常に生み出せない限り絶対存続しないから、文化の周りには経済が必要ということでしょうか。

小川:持続可能な社会を実現するために、企業がこれから自社の営みを変革していく=サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)というのは、今鈴木さんが仰ったような個人から始まる循環の企業版だと思っていて。企業で働く一人ひとりの幸せがあり、さらにその先の顧客や取引先企業の方々の幸せがあり、それを持続可能にするビジネスのストラクチャ―つまり、経済というものがそれを支えるものとして存在する。
 経済という言葉は、もともと「経世済民」という言葉から出来上がっていて、昨年度リサーチをしていたときに、その言葉を作ったのは東海市に生まれた細井平洲さんという方だったということに辿り着きました。人々がより豊かに暮らしていけるようにするためにはどうしたらいいのかということを、その国や政治を動かしてる人こそ考えなくてはいけないよということを伝えるために「経世済民」という言葉を細井平州さんが作られたらしいのです。


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石田:イギリスのジョン・スチュアート・ミルという経済学者がいますが、彼が19世紀の中頃に「自由論」の中で同じことを言っている。経世済民と同じような概念を書いていて、ちょっとびっくりしたのだけど。

小川:細井平州さんは、江戸時代の方ですね。

石田:細井さんの方が一歩進んでいた?

小川:細井平州さんに影響を受けた方が、政治家など、歴史上にたくさんいらっしゃるんですよね。東海は、改めて、すごい土地だと思っています。経済という言葉そのものが生まれた場所でもあり。

後藤:そうすると、企業文化は歴史だとわかったけど、普通の文化は何なのという話が残ります。

鈴木:文化は、自分の興味からしか生まれないから、その図の中心にあるべきかなと思います。その周りに人がいて、そして、その周りに経済があるような感じ。例えば、寝ることについて、今日腰が痛いとなったときに、はじめて寝るとは? と考える。そう思うと、一日の3分の1くらい寝ているのに、あんまり寝ることについて考えたことがないなと気づく。そう言えば、あそこに布団職人がいたな、あれ、布団とは? 今、僕はベッドで寝ていて、そう言えば日本人は布団で寝てたなということを考え始めて、布団の文化に触れる。そして、その人との仕事が見えて、その人と話をするようになって、仕事を一緒にするようになる。出発は、自分の興味からしか生まれていないなと思います。

石田:制約の中で、みんな「個のデザイン」をやっていたんだよね、昔から。今、制約をとってしまったから、地球環境も大変になってしまったのだけど、改めて、そういう制約の中で「個のデザイン」をやればいい。それが、一つの文化を作っていくのだと思うよ。

小川:一人ひとりがどう生きるかを考えていく。そして、共同体というコミュニティのなかで、どう生きていくかという生き方、考え方が共有されていく。

石田:そういうことだよね。今は、生きることが当たり前のように思われてしまっていて、その周辺にあるお金だとか、モノだとか、そっちの方に行ってしまっているところが、すごく悩ましいところ。実は、昔より、遥かに生きることが難しくなっているのだけれど。笹野さんも、未来が、なんとなくどんよりしているということを本能的に感じてるのではないかなという気が、さっきからずっとしてる。生きるということをあまりに蔑ろにしている。おそらく誰も真剣に考えたことがないのではないかな。生きるということは、どういうことかって。

小川:今日、話をしてきてどうですか?

笹野:文化は循環しているもの、だから人から繋がって。繋がってという意識すらなかったのですが。これまで文化は日本伝統芸能、和食というものだけで考えていました。ルーツをたどったり、いろいろ考えていくと、循環していることとどう関わりがあるか? 文化ができる前のおおもとには思想があり、その背景には人がいる。いろいろ関わって文化ができているものということを広く視野をもって考える機会になったので、自分の視野、考え方が幅広くなったのかなと思います。そうでなかったら、文化は伝統芸能と言ってしまっていたのだろうなと思います。この場で視野が広がってよかった。

石田:私は、そう思わないということはない?

笹野:何でしょうね、そう思わなくなってしまったんですよね、環境的に。反抗するのが苦手というか、そういう機能がないというか、自分自身で深く考えたことがない。機会がないのかわからないけど、その場で、自分の意見はなんだろうと根を詰めて考えないと、自分の意見が出ないです。だから聞いて、ああなるほどと自分が共感できたものが自分の意思に変わってしまっているのかもしれないのですが、時間をかけて考えればもしかしたら出るのかもしれないですが、今ぱっと聞かれたところで、自分の意見は出ないので、言葉をそのままに受けとめてという感じです。とりあえず受身ですね。全部受身になってしまうので。今全部聞いてて、自分の意思が必要だなと思いました。

後藤:一旦、受け入れるには受け入れるのだけど、しばらくすると違うんじゃないかと思う気持ちが出てくる。

笹野:そうですね。時間が経ってから違うんじゃないかな、言っておけばよかったとなるのですが、時間が経たないと処理が追いつかない。

後藤:すごくわかる。その場では、そうなんだと受け入れて納得するんだけど、しばらく自分で考えていて消化していくと、あれ違うんじゃないかと思うんですよ。

笹野:刺激をたくさん受けて感化されて。こんな環境はなかなかないので。

小川:時間が経ったり、年月もかかるかもしれないけれど、そのときに、ああ言われたけど、私はこう思うとなっていくのでしょうね。
 INAXさんの企業文化も、人と人とのコミュニケーションによって生まれてきた創造性の積み重ねなんだということを石田先生と後藤さんのやり取りを見ていて感じました。こうやって、INAXという企業や文化が出来てきたのだなと思って。

石田:風通しはすごくいい。

小川:対話によって、禅問答みたいなことを投げかけ合って、思考や感性がスパイラルアップして互いに高めあっていく。創造するって、そういうことなんだなと思いました。

後藤:株式会社INAXという会社は、実は、ボトムアップで出来上がっていった会社なんです。株式会社LIXILは、また違う要素の企業同士が一緒になって、お互い、いいところを出し合ってやっていきましょうというのが我々の基本的な考えですよね。

小川:創造性は、高めあって、創発し合い出来上がっていくもの。また、文化もそのように出来上がっていくということですね。
 
 それでは、以上で、終わりにしたいと思います。みなさま、ありがとうございました。

 

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Design & Photograph: Takahisa Suzuki(16 Design Institute)
Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
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Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
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