未来会議 | Vol.3 後編 | 2023.04 update
三井不動産株式会社
ホテル・リゾート本部 ホテル・リゾート事業二部
事業企画グループ 上席統括
松山岩生さん
アマン
日本地区担当マーケティング&コミュニケーションズディレクター
早田美奈子さん
アマネム総支配人
門田敬男さん
株式会社ロフトワーク
共同創業者/株式会社Q0 代表取締役社長/
株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長
林千晶さん
対談ファシリテーション
株式会社ロフトワーク アートディレクター 小川 敦子
撮影:16 design 鈴木孝尚さん
-背景-
三重県の伊勢志摩国立公園は、東西約50km、南北約40kmにわたり、伊勢市二見浦から南伊勢町古和浦湾(こわうらわん)へ至る海外線とその内陸部の丘陵地を含み、志摩半島の大部分を占めている。リアス海岸、波の激しい侵食によってできた海岸崖に代表される海岸地形、藻場・干潟等の海域景観、常緑広葉樹林を中心とした植生、人文景観等の景観を有する地域が、日本を代表する傑出した景観を有する地域であることが評価され、1946年に戦後初の国立公園として指定を受けている。
2016年にオープンした伊勢志摩のリゾートホテル「アマネム」は、三井不動産(株)と外資系ホテル・アマンの共同開発によるものであり、伊勢志摩の森の風景の中に溶け込むように、全ての建築デザイン設計が配慮されている。ホテルの美しいエントランスからは、穏やかな英虞湾に点々と浮かぶ真珠の養殖いかだや島々の風景をゆったりと眺めることができる。
非常に森の荒廃が進み、荒れ果てたその状態を回復させるため、三井不動産(株)が所有。パートナーとして共同で開発を行ったアマンと「森を再生しながらホテルを運営する」という壮大な構想、かつ、新たなビジネスモデルに挑戦した。
今回、対談は現地である伊勢志摩のアマネムのヴィラにて行った。対談中も、海からの風が吹き、あらゆる種類の鳥の囀りが聴こえ、自然溢れる、非常に心地の良い場所だった。
4 回復か? 共生か?
小川:「回復か?共生か?」という、そもそものテーマに戻りますが、東海サーキュラー・プロジェクトでは、回復というと、人間が主語になるよね? という話になり、つまり、人間が回復させるという発想になるよね? と。自然との共生というと、人間だけで議論をしていくだけではダメで、アマネムであれば、日々、門田さんと庭師の方が一緒に維持管理する上で、相談している相手は人間だけではなく、実は、風景も、そこにはちゃんと入っていると思っていて。環境問題にかなり寄って、議論される際に、「生態系の回復」という言葉を聞くと、「人間が自然をコントロールしよう」という発想も出てきてしまうのではないか、と。
林:共生は一見使いやすい言葉だけど、そこには、時間軸もなく、行為もなく。自然と共生しましょうということなんですけど、これから時代が変わっていって、人間が少なくとも進化していくなかで、何が難しくなるのか? 回復をするということには、お金もかかるし、自然を回復させることにお金を使うということ自体が、すごく難しい判断だと思うんですね。
10年、20年の間で、人口が100億人いるけど、世界中で緩やかに減っていく。中国、韓国、日本、ヨーロッパも増えてはいないし、インドとアフリカも緩やかに減っていくことが見込まれている中で、これからは、回復をうまくしていきながら、自然も気持ちがよくて、人間も気持ちが良い形がどうできるのかと考える時代なのかな、と。今までは、人間だけが心地よいのはどうなのか? ということを考えてたけども、これからは、“気持ち良い”という形がどうできるのか? ということを考える時代なのかなと、今日、皆さんのお話をお聞きしていて思ったんですけど、どう思いますか?
松山:自然というと、植物、動物と色々ある中で、そこまで自分たちが出来ているかな、と反省してしまう点もありますが、傷んでいる部分は直したいし、直すにも治療費もかかる。どう負担するのか? どう理解するのか? 社会的コンセンサスを取った上で、システムを作っていく、そういう流れに向かって行って欲しいと思います。都会は戻せないぐらいに壊れてしまったけど、地方は復活できる。地方の方が成長という意味では、面白いのではないかな? と。自然を復活させることが経済ベースに乗る。
東京は疲れる、穏やかなところで仕事をしたいと、みんなが気づき始めている。ここで、仕事もしたい、住みたい。東京のミニチュア版みたいな都市では嫌だと。自然が豊かで、ちょっと便利、そういう空間を多くの人が求めるようになるのではないか、と。そこに、バリューが出てきて、システムが構築されていくことに繋がっていけばいいなと。
林:1泊で来るということではなく、レジデンスにも力を入れていますというお話も先ほどありましたが、ここは、非日常ではなく、むしろ、最先端の日常になっていくところなのではないか? と。ここに来た時、ああリラックスして、ここで疲れを取って、また、東京で頑張ろうと思えなくて。むしろ、こっちに、どんどん向かっていきたいなと。コロナ期を経験し、別に東京に年がら年中いなくても、いいんじゃないのと思っていて。
三井さんも、このようなレジデンス型の居住空間に、今後より力を入れていくのかな? と思ったんですが。
松山:アマンレジデンスは、一般住宅とはちょっと違う。
林:毎日住むわけではないけど、定期的に来るということですよね。
松山:来ないときは、客室として貸す。それは、ここのシステムの一つです。
小川:共有のレジデンス空間。ホテルにおいても、このようなシェアが、新しいシステムになり、それが価値になっていく、ということですよね?
林:そう、未来のね。
松山:我々からすると、オーナーさんは、共同事業者なんですよね。マンションや住宅みたいに、売って、買って、さよならという関係ではない。三井不動産が100%持っていたけど、2%を4人に売りましょうという感覚で、売っているんですね。常に同じ船に乗って、アマンを支えていく立ち位置。保有もされているから、年間何日かは、ここに来るだろうと。それ以外は、ホテルの客室の一つだよね、と。ここは、自宅ではないけども、自分のライフスタイルの1ページになればいいわけで。そういう意味では、非日常が新しい日常の1ページになるのかなと思いますね。
門田:シンプルに言えば、毎日、同じ敷地内を歩いているんですけども、キジを見つけると嬉しくなるんですよね、セキレイとか。お客様が通りかかると、ここにキジがいるよと伝えるのが、私は楽しいんですよね。
小川:先日、事前に視察をさせていただき、門田さんに初めて、お会いした際に、「以前の働き方と今の働き方は、全然違うし、もう、前のような世界には戻れない」って、仰ってましたものね。
門田:生き方が変わったって、そういうことなんですよね。ものすごく大きなムカデも出ます。そういうのも見つけると、嬉しくなりますね。
松山:わかるなあ〜。
門田:アナグマだったり、もう、それが日常になりつつありますね。
小川:門田さんは、先を行っている・・・
松山:自然の蛍が綺麗で、そういうのが普通にあり、日常にある。毎日、シーンが変わっていく。自然が、シーンを常に変えていってくれる。
門田:夏休みは、虫籠を用意しておいて、クワガタを捕まえたりして、お客様にプレゼントしたりすることもありますね。すごく喜んでくださいます。
小川:アマンの方々が考えておられる「エクスペリエンス」とは、もしかしたら、お客様を喜ばせることだけではなく、自分自身のウェルビーイング−幸福であることも、大事にされている方が多いのではないか? と。つい、もてなされる側の視点から、日本では「エクスペリエンス」について、語られることが多いですが。
早田:エクスペリエンスについて、お客様だけはなく、本人も幸福であるべきかというと、私たちは仕事としては、お客様のために提供する側にいるけれど、アマネムのスタッフは、自然、土地への愛情、自分たちの働いている環境への愛情がとてもあるから、アマネムに来られた方々に、それを素直に伝えようとしているなと感じます。自分たちがこの環境そのものが心底好きなのであれば、それを紹介すること自体が、働く側にとっての楽しみにもなると思っています。
小川:いいですね。門田さんだけではなく、他のスタッフの方、お一人おひとりが、非常に自然体な表情をされた方々ばかりで、その表情を拝見していて、色々な意味で、サービスとは何か? 働くとは何か? そもそも働くという幸福とは何か? ということを考えさせられました。自然との共生という意味では、人間にとっても大きな影響があり、暮らし方、生き方、働き方にも大きな変化がありそうですね。
本日は、みなさま、大変貴重で、そして前向きな話をありがとうございました。
-profile-
松山 岩生
1991年に三井不動産に入社。レジャー施設の運営、汐留や日本橋、芝浦、豊洲などの都市開発に携わり、2011年からリゾート事業を担当。アマネムとハレクラニ沖縄の開発、ネムリゾートのゴルフコースやマリーナの改修に携わり、現在は新たな投資開発案件のソーシングを担当。
門田 敬男
1992年日系航空会社系のホテルに入社、ロビーサービスならびにフロントオフィスを経験後、沖縄のリゾートホテルにて人事部門を担当。2018年アマネムの人事担当として入社、2019年よりホテルマネージャーを経て2022年4月より現職。
早田 美奈子
外資系リゾートやホテルのコミュニケーションズを経験。2014年、アマン東京開業時よりアマンに入社、日本地区のアマン東京とアマネムのマーケティング&コミュニケーションズを担当。
林 千晶
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。
小川 敦子
ロフトワーク京都 アートディレクター
1978年生まれ。百貨店勤務を経て、生活雑貨メーカーにて企画・広報業務に従事。総合不動産会社にて広報部門の立ち上げに参画。デザインと経営を結びつける総合ディレクションを行う。その後、フリーランスのアートディレクターとして、医療機関など様々な事業領域のブランディングディレクションを手掛ける。そこにしかない世界観をクライアントと共に創り出し、女性目線で調和させることをモットーにしている。2020年ロフトワーク入社。主に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を軸としたコーポレートブランディングを得意領域とし、2021年より経産省中部経済産業局、大垣共立銀行が中心となりスタートした、東海圏における循環経済・循環社会を描く「東海サーキュラープロジェクト」のプロジェクトマネージャーを担当。
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credit
Design & Photograph: Takahisa Suzuki(16 Design Institute)
Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
Photograph: Yoshiyuki Mori(Nanakumo Inc.)
Director: Makoto Ishii(Loftwork Inc.)
Director: Wataru Murakami(Loftwork Inc.)
Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
Producer: Kazuto Kojima(Loftwork Inc.)
Producer: Tomohiro Yabashi(Loftwork Inc.)
Production: Loftwork Inc.
Agency: OKB Research Institute
本プロジェクトへのお問い合わせは
株式会社FabCafe Nagoya CE事務局
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3丁目6-18
Mail : info.nagoya@fabcafe.com
© Loftwork Inc. / FabCafe Nagoya Inc. / OKB Research Institute