Interview | Vol.4 | 2022.06.08 update

一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長 
石田 秀輝さん

 

なぜカーボンニュートラルを実現しなければならないのか?


 地球上の生物の総重量は、約一兆千億トンあり、近年はあまり変化していないと言われています。それに対し、我々人間がつくる人工物は指数関数的に増え続け、二〇二〇年十二月には生物の重量を超えてしまいました。このままいくと二〇四〇年には生物の総重量の二倍以上に達すると見込まれています。生物は太陽エネルギーだけで循環しますが、人工物のほとんどはゴミになるだけ。自然の修復能力は、とても人間の搾取には追いつけません。我々は自分で自分の首を絞めてきたことで、カーボンニュートラルに取り組むしかない状況に追い込まれてしまっているのです。  どうしてこんなことになってしまったのでしょう。その根源は、一九七〇年代の工業化を機に、アニミズム型から資本主義へと社会構造が変化し、「豊かさのものさしがお金になった」ことにあります。かつては圧倒的に強い自然(生命)と共同体ががっちりと食いついており、個(人)は共同体に帰属している状態でした。しかし工業化が進み、個(人)は自然(生命)や共同体から離脱するようになりました。お金さえあれば、共同体に帰属する必要はなく、自然(生命)から縛りを受けることもない。そして個(人)の際限のない肥大が、自然(生命)という土台を侵食して今の地球環境問題をつくり上げてしまったわけです。
 つまり、我々が持続可能な社会を創成するには、もう一度、個(人)を共同体や自然(生命)につなぎとめるしかありません。それは、昔に戻るということではない。我々がもう一度、共同体や自然(生命)とつながりたくなるよう、もっとオシャレなライフスタイルと新しい共同体の形を紡ぎ出せばよいのです。
 ただし、我々に残された時間はほとんどありません。地球環境はすでに限界に近づいているからです。特に、「生物多様性」や「気候変動」、「マイクロ・プラスチック」の問題は、二〇三〇年までに手を打たなければ、文明崩壊の引き金に手をかけることになるかもしれない。同時に、現在の経済システムである市場原理主義も限界に至っています。日本はバブルの崩壊以降、次なる定常化社会へジャンプできず三〇年間ものたうち回っている。未来に夢がないから人口減少に歯止めがかかりません。その先にあるのは、やはり文明の崩壊です。

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バックキャストで〝心豊かな暮らし〟が できる未来を考えよう

 経済が成長すれば地球環境は劣化する。経済と環境は表裏一体の関係にあり、両立しないことは多くの経済学者が証明しています。これが意味するのは、「現在の延長に未来はない」ということ。だからこそ、今やらなければいけないのは、「我々が目指す未来の社会を先に定義する」ことです。この思考方法を〝バックキャスト〟と言います。目の前にある問題を解決するために今できることを考える〝フォーキャスト〟では、永遠に経済と環境の両立はしないと断言してもいい。
 「未来を考える際に、子どもたちに我慢をさせてはならない」というのが、僕の一番強い想いです。地球環境が今後ますます厳しくなるとしても、未来はワクワク&ドキドキしないとおもしろくない。そんな〝心豊かな暮らし〟ができる未来を描きたいんです。  我々のいる現代の社会は、「依存型」の社会です。快適性や利便性のためにテクノロジーやサービスが何でもやってくれる、その極端な形は「完全介護型」と言い換えてもいい。けれども、多くの方々が望んでいるのは、「自立型」で究極のかたちは「自給自足型」の社会ではないでしょうか。バックキャストで考えてみると、この依存と自立(自給自足)型社会の間に、大きな隙間が空いていることが見えてきます。この隙間を埋めることこそが、今求められていて、オシャレなライフスタイルを生み出すあたらしい形なのです。
 そしてその構造は、ちょっとした「不自由さ」や「不便さ」(喜ばしい制約)を個(人)や共同体の知識・知恵・技で埋めることであり、その結果、愛着感・達成感・充実感が生まれる世界です。これこそが〝心豊かな暮らし〟であり、そのために必要なテクノロジーやサービスが今後は強く求められてくるだろうと考えています。
 では、どうすればそんな新しい定常化社会に移行できるのでしょうか。僕は「コロナ禍が我々のライフスタイルを変える加速器になるのではないか」と仮説を立てました。二年間で三百人以上の方々にインタビュー調査をしてわかったことは、「個(個人、家族、仲間、小さな企業、小さな行政)として暮らし方、働き方や学び方などいろいろなことをデザインできることが評価されるようになった」のがひとつ。もうひとつが「三密という制約の中で個が暮らしをデザインした結果、CO2排出量を三〇パーセント削減できた」ことです。我々は〝制約によって新しい豊かさをつくり上げられる〟と、実証できたわけですね。
 この二年間のインタビューにおいて、制約の中で心豊かに暮らすためのキーワードを二百以上も集めることが出来ました。そのキーワードを使って二〇三〇年の社会デザインをいくつも描いてみました。二〇三〇年の社会は、個のデザインというプラットフォームの上に自然を近くに…、豊かな農と食…、域内で循環するもの…、未病と健康…、豊かなローカル…というような五つのカテゴリーが生まれることが見えてきましたが、例えば、そのうちのひとつである『域内で循環するもの』の中の「ものを持たない社会」について紹介しましょう。
 この社会では、ものを大切にするのが当たり前、壊れたら修理するのが当然、という感覚になっており、近所の修理屋さんも復活しています。また、車はもちろん、家電や衣服まで、人々は何でもシェアしている。その使用量によって従量課金されますが、機能そのものは永久保証。人生百年時代ならぬ、耐用年数百年時代を迎えます。こうなるとメーカーはモノづくりの概念を大きく変えざるを得ません。長寿命で故障しづらく、たとえ故障しても簡単に修理できる設計にしておく必要がある。リサイクルやリユースを前提としているので、もはやバージン原料を搾取することはないのです。
 このように未来の社会を予測して新たなビジネス戦略を立てることを、〝Future Marketing〟と名付けました。今回はモノづくりについてお伝えしましたが、それ以外のさまざまなカテゴリーについても〝多色で〟整理することが大切です。イノベーションはテクノロジーで起こるのではありません。個のデザインをプラットフォームとするライフスタイルがイノベーションを生み出します。そして、そんな社会を先導するのは、小回りの効く中小企業の役割なのです。DXやサーキュラーエコノミーといったツールを駆使しながら、企業と社会、それぞれのサステイナビリティを組み合わせながら事業経営を行う「サステイナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を実現していきましょう。

 

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東北大学 名誉教授、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)理事長
石田 秀輝
1953年、岡山県生まれ。株式会社INAX(現・株式会社LIXIL)取締役CTO 等を経て、2004年に東北大学大学院環境科学研究科教授に着任。2014年から鹿児島県の沖永良部島に移住し、私塾を開いて持続可能な社会を実践研究している。2019年から現職。著書:「『バックキャスト思考』で行こう!」(ワニブックスPLUS新書 2020年) 「危機の時代こそ 心豊かに暮らしたい」(KKロングセラーズ 2021年)他多数

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Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
Photograph: Yoshiyuki Mori(Nanakumo Inc.)

Director: Makoto Ishii(Loftwork Inc.)
Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
Producer: Kazuto Kojima(Loftwork Inc.)
Producer: Tomohiro Yabashi(Loftwork Inc.)
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