Archive | 2023.03 update

kaimen prototyping 代表 プロトタイピング研究家 長﨑 陸さん
株式会社ロフトワーク アートディレクター ⼩川 敦⼦

小川:二〇二一年十月に発足した「東海サーキュラー・エコノミー推進事業〈知財活用〉 プロジェクト」では、これまで五社のアンバサダー企業のみなさんとともにラーニングやワークショップを行いながら、未来を見据えた持続可能な経済活動に向けて、協調・共創をテーマとした「新たな知財活動」を模索してきました。その中で、長﨑さんのプロトタイピングの手法を用いて導き出した仮説について、今日はご紹介したいと思います。

長﨑:本題に入る前に、プロトタイピングとは何かを簡単に説明しておきます。プロトタイピングとは、まだ問題が明らかではないとか、何から始めればいいかわからないときに、少しずつ安く早く試しにやってみて、何度も失敗を重ねながら、うまくいく方法や、より本質的な問いかけを何とか探していこうというやり方のことです。
 今回のプロジェクトであれば、それぞれの企業が独自の企業活動を行っている中で、絡まった利害関係を解きほぐしながら、どうやってひとつのゴールを目指していくかを考える上で、プロトタイピングの手法を活用することにしました。その結果、導き出した仮説は、「風土記に根ざした未来の経済圏」をテーマにしようというものです。


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―東海エリアの未来の経済圏を描く鍵は 「風土記」にあった

小川:まず、アンバサダー企業のみなさんに、歴史的に自社とつながりの深い土地を調べてもらったところ、「知多半島だ」とおっしゃる。そこで知多半島を起点に東海エリアの風土記を紐解いていくことにしました。すると、実はサーキュラーエコノミーという言葉を使わずとも、「かつては当たり前のように〝めぐり(循環)〟が行われていた」ことがわかりました。
 古代、伊勢湾は東海湖という名の大きな湖でした。そして伊勢神宮のある場所は、かつての湊。伊勢と鳥羽が交易の湊として栄えていたのです。交通手段は船でしたから、紀伊半島には船をつくる民族がおり、造船業が営まれていました。造船には多くの木が必要です。加えて、伊勢神宮では二十年に一度「式年遷宮」がありますから、さらに多くの材木が必要です。サステイナブルに森を育て、自然環境を維持するための「神宮森林経営計画」が伊勢神宮では独自に立てられているというお話も伺いました。御用材と言われる材木は、江戸期以降、木曽村から木曽川を下って伊勢湾まで運ばれていましたし、現在も遷宮の材木に使われています。
 かつて、東海エリアの産業は、林業・水産業・農業の三つが基本でした。この三つの産業が継続的に行えるよう、伊勢・鳥羽湊を中心に交易と流通の仕組みが整えられていたこと、伊勢湾・木曽三川を中心とした「水の循環」が交易を支えていた。土地の風土と人々の産業や暮らしがすべて一体となって循環が成立していた。さらに、紀伊半島に造船技術を持った民族がいたことから、構造設計の技術が発達し、現代でも自動車をはじめとする輸送用機械や航空機、それらを支える金属加工などのインダストリーを中心とした、モノづくり企業が集積したエリアとなっていることも見えてきました。

長﨑:たとえば㈱大垣共立銀行さんは、たびたび氾濫する木曽三川の水害からの復興に融資などのサポートをすることで地域と共に発展した歴史があります。そんなふうに、自社がどのように東海エリアの〝めぐり〟と関係してきたのかを地図に表してもらいました。
 ただ、ここでひとつ問題が起こりました。たとえばアンバサダー企業である㈱ファーストさんは、商業施設のサイネージの製造を手掛けられている企業です。どう掘っても、風土記との絡みが出てきません。
 そこで、風土記に直結した事業を持つ企業を「一次リンク」、㈱ファーストさんのような直結した事業は持っていない企業を「二次リンク」とお呼びすることにして、東海エリアで行われてきた〝めぐり〟の核となる〝水〟を起点に、未来の東海エリアの水辺にまつわる新たな事業のアイデア出しを各社にしてもらいました。こうすることで、二次リンクの方々も、未来の風土記を形成する一翼を担うことができるからです。
 このプロジェクトにおける我々循環プロバイダーの役割は、そうした座組みをつくるだけでなく、次世代のミュータントのような若者を東海エリアに呼び込み、一緒におもしろい未来を描くための仕組みをこれから考えていくことです。
 今後は、各社から出されたアイデアを具現化して、東海エリアの未来の風景として実装するために、経済合理性も大切にしながら知財を生み出す方法を、引き続き模索していきたいと考えています。


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Design & Photograph: Takahisa Suzuki(16 Design Institute)
Copywrite & Text: Atsuko Ogawa(Loftwork Inc.)
Text: Madoka Nomoto(518Lab)
Photograph: Yoshiyuki Mori(Nanakumo Inc.)

Director: Makoto Ishii(Loftwork Inc.)
Director: Wataru Murakami(Loftwork Inc.)

Producer: Yumi Sueishi(FabCafe Nagoya Inc.)
Producer: Kazuto Kojima(Loftwork Inc.)
Producer: Tomohiro Yabashi(Loftwork Inc.)
Production: Loftwork Inc.
Agency: OKB Research Institute

 

本プロジェクトへのお問い合わせは

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