Interview | Vol.8| 2023.03 update

東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 教授
梅田 靖さん

―企業を取り巻く環境の変化と サーキュラーエコノミーの関係性

 まず前提として、サステイナビリティを企業活動の中心に取り込まなければ企業はやっていけなくなる時代が来ています。
 企業活動における本質的な変化として、大きく三つが挙げられます。
 一つ目は、企業活動の〝真ん中〟にサステイナビリティを据えなければならなくなったこと。従来のCSRのように、工場ではふつうにモノづくりをして、それとは切り離されたところで環境部門の人たちがちょっと環境にいいことをするのではありません。製造部門をはじめ、あらゆる部門でサステイナビリティを考え、企業活動の隅々にサステイナビリティを浸透させる必要があります。
 二つ目は、Absolute Sustainability(絶対量で測る持続可能性)へシフトしていること。従来は「ゴミを減らそう」「リサイクルしよう」と取り組んできましたが、そうした〝今よりは良くする、できるだけがんばったほうがいいよね〟という発想では、もはやダメ。カーボンニュートラルに代表されるように、絶対的な目標を達成しなければ、合格点が取れない世界になってきています。
 三つ目は、戦略モデルからビジョンモデル(パーパス経営)への転換が求められていること。これは早稲田大学の入山章栄教授の記事から拝借しました。要は、経営者がビジョンをしっかりと言語化して、「こんな未来を目指しているから、企業活動としてこういうことを目指したい」と自らの言葉で語れることが重要だということです。不確実性の高い現代では、分析結果に基づいて計画を立てるという戦略モデルの有効性が低下します。だからこそ経営者のビジョン(未来の構想)やパーパス(存在意義)を表明することで、サステイナビリティへの取り組みを加速させる必要があるのです。
 サーキュラーエコノミーは、欧州委員会が政策パッケージとして言い出したことではありますが、「資源が巡り続けることを前提に価値を載せて、経済システムが回っていく社会」を目指していると考えれば、否定するのは難しいと思っています。つまり、サーキュラーエコノミーは、雇用の確保や競争力の強化に重点を置きながら、経済システムの根本的な転換を狙っている。
 従来の資本主義経済の下で、「一生懸命リサイクルしましょう」と、従来の3Rの発想から抜け出せない日本の循環型社会とは、目指すところが大きく違うとおわかりになるでしょう。たとえば自動車部品のオルタネーターであれば、使用品を回収して分解し、きれいにしてから品質保証をつけて再生品として販売する、といった「リマニュファクチャリング」が今後は広がっていくと考えています。

 

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―サーキュラーなモノづくりを支援する 「循環プロバイダー」とは

 では、サーキュラーエコノミーをビジネスに結びつけるには、どうすれば良いのでしょうか。ビジネスを成立させるためにはシステマティックに価値を生み出す仕組みをつくることが求められます。そこにはサーキュラーエコノミーを支援する「循環プロバイダー」という新たなプレイヤーが必要になってくるのではないでしょうか。なぜなら、メーカーはモノをつくるのが得意な人たちであって、循環する仕組みをつくるプロではないからです。うまく循環させるには、あらかじめ仕組みを設計して、適切にマネジメントしなければなりません。製品そのものをつくるのはメーカーですが、サーキュラーな製品ライフサイクルをデザインするのは循環プロバイダーの役割ではないかと考えているのです。
 循環プロバイダーは、単独で循環をつくり上げるわけではありません。リサイクルに限れば、材料メーカーやリサイクラーが得意な領域だと思いますが、モノ・情報・お金をうまく循環させるには、製品ライフサイクルを包括的に見ながら、さまざまなステークホルダーを巻き込んでいくことが大切です。ビジネスの企画から運営まで、適切にアライアンスをコーディネートして、全体のオーケストレーションを担うのが、循環プロバイダーなのです。実際、世に出ている日本のサーキュラーエコノミーの事例でも、裏で銀行やコンサルティング企業のようなサービス企業が、循環プロバイダーとして活躍しています。
 では具体的に、循環プロバイダーは何をするのでしょうか。まずは、PSS(プロダクトサービスシステム)やシェアリング、サブスクリプションなどを組み合わせながら、大量生産・大量販売から脱却した新たなビジネスモデルを描き、実装していきます。そこでは顧客であるユーザーの声も重要になるため、主体的な参画を促しながら、巻き込んでいく必要があるでしょう。次に、製品ライフサイクルの設計をします。今はデジタル技術を駆使して個々の製品状態をリアルタイムに把握できますから、そうしたデータも活用しながらマネジメントする仕組みを描いていきます。循環を前提としたモノづくりでは、モノとしての製品ではなく〝生み出される価値〟に重きが置かれるため、製品設計から見直さなければならないことは、あらかじめメーカーも受容しておく必要があるでしょう。
 そんなサーキュラーエコノミーを実現するモノづくりへの転換に向けた第一歩は、「夢を語ること」だと思っています。誰に・どんな価値を・どうやって、届けたいのか。未来のビジネスのシナリオを描くことから始め、次第にシビアなビジネスプランへと落とし込んでいく。石田先生のお話と同様に〝バックキャスティング〟で考えたほうが、おもしろいアイデアが生まれてくるはずです。ぜひみなさんもがんばってみてください。

 

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東京大学大学院, 工学系研究科教授
梅田 靖
1992年3月、東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同大工学部助手、講師を経て、1999年4月から東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻助教授、2005月2月に大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授、2014年1月に東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻教授。2019年4月より東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。

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