Interview | Vol.12 | 2023.05.02 update

三重大学大学院 生物資源学研究科
地球環境学講座 気象•気候ダイナミクス研究室 教授
立花義裕さん

−気候変動や環境問題の制約による企業への影響は、今後、かなり甚大になってくることが予測されていますが、日本では、気候変動を「外で起きていること=自分ごと化をし当事者として理解できていない」傾向が高いように思います。その前提として「気候変動とは何か?」ということを多くの人があまり理解はできていないということもあるかもしれません。
 気候変動とは何か? 温暖化とは何か? 日本・東海圏で何が起きているのか? 制約・気候変動から導かれる解決策は何か? 立花先生の見解について、本日は、お話を伺わせてください。


地球環境への意識を高めるために必要なのは、なぜ?という好奇心。

 本物の地球環境という話を異常気象や気候変化という視点から、お伝えします。
 まず、皆さんに知ってほしいことは、多くの方たちに危機感がないことです。気候危機が最近新聞を賑わせていますけれども、CO2を減らしましょうとか、地球に優しい暮らしをしましょうとか、いろいろあると思いますが、そんなものは表向きの話であって、自分には関係ないという人がほとんどですね。啓発してても、一部の興味のある人にしか伝わらない。温暖化で地球の未来はどうなるのか遠い未来ではなく、実際に起こっているということを一部の報道や新聞にも書いているのだけど、新聞の狭い面に書いてあっても、まず読まない。科学面をまず読まないですから。インターネット配信のネットニュースは本人の好みのニュースが配信される仕組みになっているため,興味がもともと無い人の意識が高まるようにはネットニュースも作用しない.3日前の毎日新聞の科学欄に「線状降水帯」のことが掲載されていましたが、知らないでしょ? 私だって新聞を取っていますが、忙しい日は見る暇が無く毎日は見ていません。危機意識は、普通の方法や既存のインターネットアプリを通じてやってもダメなんです。どうしたらいいかということは、私も悩んでいます。悩んでいる中での話をすると、まず知ってもらいたいのは、どのようになっているのか?ということ。今日は、その話をします。
 気象現象に興味を持つと、自動的に防災意識も高まり、環境意識も高まります。子どもは好きなんです。ほとんどの子どもは、何で? と聞くんですね。子どもは、知的好奇心が旺盛なのですが、10代、20代、30代になるにつれて、どんどん消えていくんですね。ここを何とかしないとダメだなと思っています。大事なのは面白いこと。


猛暑は災害という意識を持つことが前提になる。

 「猛暑は災害である」ということを、まず皆さんに知っておいてほしい。猛暑で亡くなる方は毎年千人以上です。この図(図1)は、人はどういう時に死に至る可能性が高まるか? というグラフです。横軸に月が書いてありますが、相関係数になっています。プラスの相関係数は何かというと、気温が高いほど死に至る可能性が高いということです。マイナスの相関係数は、気温が低いほど死に至りやすいということを表しています。例えば、6月、7月の相関係数は0.4。これは、夏は暑いほど人が死にやすいということです。一方で、11月、12月は、マイナスになっています。寒いほど人が死ぬ確率は高まります。死因は分けていないのですが、夏は暑いと死に至る可能性が高く、冬は寒いと死に至る可能性が高い。もう既に、これだけの人が亡くなっているわけです。このような事実をまずほとんどの方が知らないですよね。ただし、相関係数は高くないので、気候が全てを決めるわけではないことには注意してください。

 

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(図1)月平均気温と前年差の死亡者数の相関

 

猛暑の要因は、北極の温暖化にあり。北極で起きることは、対岸の火事ではない。

 今夏、ヨーロッパは超猛暑、日本は猛暑と大雨という状況にありました。北には寒気があり、南には暖気があり、その境目に吹くのが偏西風です。この偏西風の北にいると寒く、南にいると温かい。この偏西風が日本付近で北に上がっていますよね。偏西風の南側はあたたかい空気に覆われているので、日本は暑い。同様に西ヨーロッパでも偏西風が北に上がってるので暑い。(図2)
 ヨーロッパの猛暑と日本の猛暑というのは、偏西風が蛇行していることが原因です。ヨーロッパと日本で偏西風が北に上がる現象が最近増えています。激しい蛇行が増えているんです。昔は、このような激しい蛇行をすることはあまりなかったですよね。


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(図2)世界で連鎖する異常気象[引用元:三重テレビ・気象らぼ]

 

 北極が温暖化すると、偏西風は蛇行しやすくなるんです。北極圏の温暖化が、近年激しいというのはよく聞くでしょう? シロクマも困っているとかで。北極は北極で、日本には関係ない、生活に全く関係がないと、ほとんどの方が思っているのだと思いますが。シロクマが困ったところで、我々の暮らしには関係ないというね。違う星の話だと思っている人も多いですよね。
 偏西風というのは、北極と中緯度の間の気温差が大きいほど、強く吹きます。気温差が小さいとあまり吹きません。これは気象学の常識としてあります。北極が温暖化しているので、気温差が小さく偏西風が弱まります。偏西風が弱まると蛇行しやすくなります。これはなぜかというと、川の流れを考えると分かりやすい。川の流れは急流だとまっすぐ流れ、ゆっくりだと蛇行して流れますので、速いものはまっすぐ、ゆっくりだとフラフラする。地球の温暖化に伴って、北極の氷がどんどん溶けることによって、偏西風の蛇行が激しくなり、そして、日本やヨーロッパに猛暑をもたらしています。単に、なんとなくCO2が増えて暑いのではなくて、より暑くしている理由は「北極の温暖化」。北極のことを真剣に考えないと、自分に影響が出てきます。北極の温暖化の影響が、日本に現れているのは事実です。ヨーロッパの人たちは温暖化などの地球環境に関心が強いです。北極に近いせいもあると思いますが、自分事として考えています。


猛暑により海水温が上昇し、それが、豪雨に繋がる。猛暑と豪雨は、連動する。

 次に、「線状降水帯」についてです。2022年8月は東北地方を中心に雨が大量に降りました。豪雨が、なぜ降ったかというと、偏西風に要因があります。となると、北極に原因があるんですね。日本の斜め下に行くと東シナ海があります。温かい水の影響を受けた水蒸気がたくさんあります。東シナ海の水蒸気をたっぷり含んだ空気が日本海を斜め北に上がっていき、かつ、偏西風が斜め北に上がるときには上昇して雨が降るということが、まず気象的には言えます。
 (図3)は、2022年8月の海面水温状況です。かなり高い水温になっています。6月下旬に梅雨明けが宣言され、太陽の光が当たり、日中気温が高いので水温はもっと上がりました。湯気がたくさん出るのと同じように、水温が上がると、日本海の水蒸気が上がってくる。東シナ海側の暖かい水蒸気も来ますし、日本海側の水蒸気もいっぱい溜め込みます。気象的にも偏西風の影響で雨が降りやすい。もともと雨を降らせる偏西風がやって来ていて、さらに水温の影響で雨が増えたということです。猛暑がもたらした高水温の影響で、豪雨に拍車がかかった。

 

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(図3)2022年8月の海面水温

 

 このように、猛暑と豪雨は連動しています。高気圧がずっといて、前線があり、この辺りで雨が降りました。このとき、なぜ前線が停滞したのかというと、北側に高気圧が居座っていたためです。高気圧はだいたい動くのですが、偏西風の蛇行で上空の空気が淀み、渦ができているので、北側の高気圧が流されずに淀んでいた。前線が居座っている理由も偏西風の蛇行です。これが、8月の東方の豪雨の要因です。
 皆さんには、水温をもう少し見てほしい。水温が北と南で大きく違うところに気象現象の前線が一致すると、大雨が降るんです。暖かい水温を作ったのは猛暑です。水温が高いと水が蒸発する。大気中の水蒸気が増える。水温が高いと雨が増える。地球温暖化で雨が降るのは、ごく単純で水温の上昇が原因です。
 これが分かったのは、つい10年程前です。なぜそれまでわからなかったのかというと、気象学者は異常気象が起きると、空ばかり研究していた。水温が関係しているのではないかと初めて言ったのは海の研究者なんです。海洋学者にとって、海の水温を見ることは普通ですからね。気象学者は知らないですから。やはり、違う分野とコラボレーションしないと学問は発展できない。


海の温暖化というのは、世界中の異常気象と関係している。

 海の海流のことも知ってほしいと思います。
 南には黒潮という暖流が流れていて、日本海には対馬暖流が流れていて、北には親潮が流れている。黒潮は実はとても暖かい。グローバルで見てみます。この(図4)は、海面水温です。同じ赤道でも暑い場所と寒い場所がある。ある緯度で平均海面水温を計算し、そこからずれを見ることで同じ緯度の中でどこが暑いかを示した図になります。赤やオレンジ系の色が付いているのは、その場所が同じ緯度の場所の平均値よりも暖かいということです。日本付近を見ると南側はオレンジ色になっている。黒潮が暖かいからです。北は青いでしょう。これはオホーツク海ですね。日本という国がどのような位置にあるかというと、北は真冬並みに寒く、南は熱帯並みに暑い。そのお互いが近距離に存在しています。世界的に見るとそのような場所は日本付近とアメリカの沖合いにしかありません。

 

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(図4)同緯度における平均海面水温
[引用元:Kawasaki, K., Tachibana, Y., T. Nakamura, and K. Yamazaki, Role of the cold Okhotsk Sea on the climate of the North Pacific subtropical high and Baiu precipitation, Journal of Climate]

 

 日本は南北のコントラストの影響を非常に受ける。北風が吹けば寒い、南風が吹けば暖かいということは誰でも知っていますが、それが極端にあるわけです。これは今日の黒潮です。赤く色が付いているのは流速です。川のように流れていますね。早く流れるところを赤くしています。さきほどの図だと黒潮の矢印と日本海の矢印がありましたが、実は半分嘘なんですね。南を流れる黒潮はとても速く、日本海に入ってくる水はほとんど流れがないでしょう。ゆっくりと流れています。北を見ましょうか。大体銚子沖で曲がり、そのあとはずっとアメリカの方へ流れます。親潮も遅い。対馬海流は細くて、親潮もほとんど流れていない。溜まっているでしょう。黒潮はとても速くてパワフルなんです。偏西風に似ています。しかも黒潮は蛇行してるんです。蛇行して、今、伊勢湾にぶつかっている。静岡県や三重県、伊勢湾には黒潮の水が入っているんですね。これは蛇行していない年もあります。その時は黒潮の水が入ってきません。

−だから、尾鷲(三重県南部熊野灘に位置し国内でも雨量が多い地域)の方は雨が多いのでしょうか。

 いいところを突きますね。尾鷲の方は雨が多いですが、それは、黒潮が理由です。尾鷲や串本とかの辺りです。和歌山県の南部と三重県南部も雨が多いですよ。日本でも1、2を争うくらいです。それは、この黒潮の影響。とても暖かいですから。

−では、蛇行しなかったら雨が少ない。

 いいところを突きますね。そのとおりです。黒潮が蛇行していて、水温が高いんですね。温かい水というのは膨らみます。膨張しているということは、黒潮のある場所は水位が高い。こういうときに台風が来ると高潮になる。もしも、今年台風が来ると大変ですね。静岡県やこの辺りは。魚にも影響がありますが、魚以外にも影響がある。
 地球温暖化まで話が移っていますが、よく地球温暖化というと、気温が上がっているということだけしか話が出ませんが、ご覧のように、地球の7割は海ですから、海が激しく温暖化している。特に温暖化の激しい場所があります。日本付近の話です。地球規模で見ても温暖化の激しい場所。どこが激しいかというと、黒潮に沿った日本海側です。黒潮に沿って水温が高いということは、水蒸気が非常にたくさんあるということです。ここに南風が来ると雨が降るというわけです。地球温暖化とそれに伴うさまざまな異常な現象は、全部ではないけれど、多くの場合には海の温暖化の影響があります。北極の話も海ですからね。氷も海ですから。海の温暖化というのは世界中の異常気象と関係している。

−空ばかり見ていたらダメ。

 全部つながっています。地球は一つなんですよ!
 これは、8月と7月の気温の差です。(図5)は世界中で、8月と7月のどちらの気温が高いかを表したものです。日本は8月が暑い。他の国は、だいたい7月が暑いです。8月が暑い日本は、変な場所なんです。なぜ8月が暑いかというと、水温が影響しています。海面の水温は、8月のほうが暑い。暖かい水温の影響を受けて、日本は、8月の方が水温が高いから、8月の方が暑い。温暖化によって、ますます8月の猛暑、残暑が厳しくなっています。

 

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(図5)8月の気温と7月の気温の差

 

−既に、日本でも温暖化の影響を大きく受けているということですね?

 近年は、毎年千人近くの人が亡くなっていますからね。危機意識が全然ないのでね。夕方も暑くなって過ごしにくい生活がこれからさらに待ってるわけです。黒潮が蛇行すると、東海地方は暑くなります。黒潮が蛇行している年の方が、関東から東海地方はより暑いそうです。普通の年は黒潮はまっすぐ進むので東海地方は冷たい。地球温暖化で黒潮が蛇行しやすくなるか、それとも蛇行しにくくなるかは、まだわかっていません。
 それで、海が大事なのですが、東シナ海はもっと暖かいです。梅雨の終わりになると、毎年、九州では線状降水帯による雨が降る理由は、黒潮が東シナ海から流れ、九州にぶつかっているからです。気流は大体西から吹きます。たっぷりと黒潮の水を受けた風が直撃するんです。雨が降りやすい仕組みになっています。さらに、最近は東シナ海も地球温暖化で水温が上がっている。九州は最も危険であるというわけです。黒潮の動向から目が離せないですね。毎日黒潮の流路図をみればいいのだけど、さすがにテレビチャンネルを変えられてしまいますからね。釣りをする人しか興味ない。

−黒潮と偏西風に注意をしておく。

そうです。


冬は寒く、大雪が降る理由は、北極の温暖化にあり。

 冬の話をします。冬は、最近寒いし大雪も降るから、地球温暖化はしていないと言う人がいます。冬は確かに最近寒いんです。偏西風の蛇行パターンが増え、温暖化で冬は寒く夏は暑くなる。
 では、ここで、また北極の話です。北極の氷に穴が空いていますね。北極の氷が減っているというグラフですが、この穴に着目してください。穴があることにより偏西風が蛇行しています。氷に穴が開くことによって、そこから水蒸気が出ます。熱も出る。そうするとなにが起きるかというと、偏西風は暖気と寒気の境目に吹くのですが、穴が開いている場所は暖かいので、偏西風は北にずれます。偏西風が北上すると、北極の寒気が押し出される。どこに押し出されるかというと、アラスカの両側の日本とアメリカです。アラスカの北は最近暖かいのですが、逆に日本とアメリカはすごく寒い。雪もたくさん降っている。
 名古屋や三重県四日市あたりでも結構雪が降ります。冬が寒くて雪が降る理由は、北極の温暖化です。アメリカと日本に寒気が直撃するように気象が変わったので、一見温暖化していないように見えますが、実はこれも地球温暖化の影響です。アラスカの辺りは永久凍土といって、凍っている地面の上に家が建っているのですが、氷が溶けて家が傾いている。
 日本に住む我々にとっても他人事ではない。東海地方は日本海から寒気が来るので、ちょうど近畿と東海の間の山が低いところを雪雲が抜けてくる。なので、三重県では北部の四日市、亀山あたりで雪がたくさん降り、愛知県は名古屋から岐阜で降ります。
 寒気は昔よりも減っていますが、それをアラスカ沖の暖気がぐっと押します。押されると潰れるのですが、潰れても面積は変わらないので、どこかに押し出される必要がある。歯磨き粉のチューブの真ん中を押したら両方に出てくるように、寒気が温暖化によって中緯度に押し出されている。北極は暖かくなり、それに付随した影響がアメリカと日本に起きている。
 もう一つ、日本海の水温です。冬はシベリアから風が吹いて日本海を通って、太平洋に抜けていきます。日本海は暖かいのでたくさんの水蒸気をもらい雪が降る。冬は雪が増えます。名神も新名神も雪が降って止まるんですよ。除雪車がたくさん走ったらいいですが、お金はないしね。


CO2の削減により、温暖化のスピードを緩めることは可能。

−やはりCO2を削減するというのが一番の温暖化対策でしょうか? もう避けられない自然としての現象と人間の活動によるものと両方があると思います。CO2の削減をするだけで本当に温暖化に対しての解決策になるのでしょうか?

 なります。CO2の増加を止めることによって温暖化のスピードは遅くなります。温暖化はもうしているので、増やすのを止めたらいずれ減っていきます。一旦動き出した車がすぐに止まれないのと同じで、CO2の排出を止めたから、少し遅れて止まっていくわけです。

−CO2の削減だけでは解決はできない?

 できます。CO2の削減なんです。問題は、そこなんです。CO2をいかに増やさないような社会構造にしていくかということ。大企業は既に取り組んでいます。SDGsもあるし企業イメージもあるから、CO2をたくさん排出している企業はそれだけでモノを買ってもらえないからね。消費者は見てます。実際、この図を見ても、10年前の資料ですが、10年前で企業部門の排出量はもう減っています。
 相変わらず増えているのが、それ以外。特に、家庭の割合です。後は、運輸業も増えています。意識を高めるためには、しっかりとCO2が増えるとどうなのかを知ってもらう必要がある。知ってもらわないと意識を高められないですよね。大企業はいろいろな事情があって頑張っています。中小企業は親会社から安くしてと言われたら、少し地球環境には影響があってもやってしまいます。そういったところはやはり行政が入っていかないとダメかなと思います。家庭の場合は屋根にソーラーパネルをつけるための補助金がもらえますが。中小企業はそこに投資できるほどの余裕資金が無い場合が多いですから。なのでその辺りはまだまだやれることがあると思います。もちろん山を崩してソーラーパネルや風力発電所をつくるのは本末転倒です。


温暖化に適応した農作物に変えていく。気候変動適応策は、農業分野は特に必須。

−先生に伺いたかったのは、温暖化によって土壌、農業にものすごく影響があるということ。分かりやすい例だと、ワインが昔よく育ったところの気候が変わってしまい、逆に、北海道の気候が非常にブドウに適しているそうです。ヨーロッパはフランスではなく、もっと東欧の方が、産地としては適しており、ボルドーなどでは逆に、今は難しくなってきているそうですが、まだ何とかなるところは、東欧に土地を買ってワイナリーを移しているという話をお聞きしました。気候変動と農業と土壌。これらは連動していますよね。このまま進んでいくと食糧難につながるのでしょうか。

 気候変動対策は、CO2を減らすことですが、CO2を減らしてすぐに気温は下がらないので、ある程度この変化するものに適応していく必要があります。これを気候変動適応策と言います。ワインはこれから適地が変わってくる、米も変わってくる。なので環境省が、温暖化予測で日本の気温や降水量、日照時間等がどう変わるかということについて、未来の気候図のようなものを出してくれています。そういうものをもっと利用して、30年後にはこうなるということがある程度分かっているのですから、今からブドウも農作物も温暖化に適応したような農作物に変えていかないと、同じものを作っていたらダメです。米も暑すぎて収穫できなくなる可能性が高い。
 三重県は暑さに強いイチゴを今は頑張って作っています。あるいはワイン。ワインの専門の先生に講演してくれと言われて勉強したのですが、ワインはブドウの花が咲く時に雨が降ると駄目になるらしいです。ブドウの花は梅雨期に咲くのですが、その時に雨にやられるとその年のブドウの味は落ちてワインの味も落ちる。ブドウの産地は中部地方が多いですが、花が咲く時期が梅雨期からずれるような品種に変えていく必要があります。
 ブドウは乾燥地域がいいというのは、花が咲く時に雨が降らないから。地中海地域はサハラ砂漠の高気圧が来ます。日本も気候変動適応の図を見ていくと、梅雨期に雨が降らない場所もあるので、今のうちから適地を探してくれと言うんです。ですが、それをできるのは大手ですよね。大手は早めに手を打てる。小規模の企業には適地への変更は難しいかもしれない。しかも、今すぐに品種改良による気候適応が大事だという情報は、あまり広く行き渡ってないです。環境省はお金をかけて計算をして細かな地域まで予測をしているのですが、そういう計算した結果は、そのままだとエンドユーザーは使いにくいんです。
 デジタルなデータがあっても普通の人にはビッグデータは扱えないじゃないですか。私らは気象専門だから未来の気象の図を出せますが普通の人には難しい。それを繋げる役割が必要です。その繋げる役割は、例えば気象予報士のテレビキャスターとかが、その地域の農家さんや企業の人たちと繋がってアドバイスをするような作業が必要かもしれない。地球環境のことを学んでいる人たちにはもっと広く活躍してほしいです。行政的な仕事についてアドバイスする仕事はいくらでもあると思います。地方自治体に入ってもいいですし。でも行政は3年ごとに転勤があるので、せっかく詳しくなっても違う部署に異動してしまう。採用枠も、環境枠のようなものはないです。行政もそうですし、中小企業はそれどころじゃないですよね。企業さんは頑張っているので、残りは個人かなと思っています。


物流の仕組みは、未来に向けて根本的に変えていく必要がある。

 私が最近考えているのはスマートムーブ。MOVE=移動、SMART=賢い。
 中部地方は特に車社会です。車は便利なのですが…。人一人が1キロ移動するのに、どのくらいCO2を出すかというと、一般車は、バスの2.4倍。船もいいですよ。船と鉄道はいいです。物流の話もありますが、物流は船と鉄道貨物が圧倒的にいいです。トラック輸送は最悪です。ディーゼルエンジンはCO2を出します。だから長距離の物流はトラックではなく船と鉄道でいいんです。物流もトラック中心の社会から、船や鉄道を中心とした物流社会に変えたらいいんですよ。ところが船は遅いとか、トラックは積み替えなしで行けるから便利だと。要するに、使い分けです。やはりトラックは便利なので、長距離輸送は鉄道と船、短距離はトラック、このように分ければいい。
 車やトラックからCO2が出るのは、ガソリンや軽油を燃やすためですが、それを電気系統の車に変えたからといって電気を生み出すのが火力発電ならばなにも変わらない。多くの人は、私はEVにしたから地球に優しいと思っていますが、それは間違い。EVにしたからといって、そのエネルギー源が火力発電なのであれば、全く意味がないですからね。
 原子力発電所はCO2の問題は解決しますが、別の問題がありますからね。日本中のガソリン車あるいはディーゼル車、石油系燃料を使っている車が全部EVに変わったとして日本の発電量でまかなえるのか計算をしました。日本の石油消費量から算出されるエネルギーと車の輸送効率を考えたらわかります。そのエネルギーと等しい量を電気に変えることができればよいのですが、どう見積もっても足りません。今の発電と原子力ではもちろん足りない。再生可能エネルギーを加えてももちろん足りない。足りないからと石炭や天然ガスを燃やしたら元も子もないじゃないですか。根本的に車の総量を減らすしかないのです。

−そのエネルギーを、再生エネルギーに替えたとしても足りない。

 全然足りないんです。全部変えたらいかにもスマートに見えるかもしれませんが、今の発電所の能力を超えます。明日から急に全ての車をEVに切り替えたら停電になります。しかし車は便利だし必要なんです。足りない分をどうしたらいいのかというと、長距離はなるべくCO2を出さない船や鉄道に切り替え、小回りの利く部分はトラックを使うというように、物流の根本を変えていかないとダメなんです。
 物の移動は、国が何とか動かしていくという形になります。物の移動を担っているのは企業さんが多いからですね。船や鉄道輸送にシフトしていくということを国策としてやっていけばいいんです。そのためには港湾を整備して、鉄道の貨物駅も整備して、そこにトラックが待機していて乗り換えるようにする。青森から延々とトラックで来るわけですよ。無駄じゃないですか。

−となると、自転車ですよね。

 おっしゃるとおり、自転車なんですよ。人はどのような交通手段で移動するかという(図6)ですが、横軸が昭和60年から平成27年で、縦軸が鉄道、バス、自動車、二輪車ですね。これを見ると、3大都市圏は鉄道と車は1対1くらいです。見てほしいのは地方都市。ほとんどが車なんです。それは平日よりも休日が激しく、ほとんど車です。

 

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(図6)三大都市圏・地方都市圏の代表交通手段利用率 出典:国土交通省資料

 

 私が調べたのですが、人は何km以上の移動から車を使い、何km以下の時に使わないか。これは群馬県ですが、100m以下で車を使う人が26%。4人に1人は車を使う。私も車を持っているし、使います。しかしながら、さすがに100m以下の移動では使いません。この割合が0になれば、地球環境を守れるんですよね。一般の人たちは電気を節約したり、エアコンをいいエアコンに変えたりする人は大勢いますし、LEDに変える人も増えていますが、この習慣を何とかしないとね。

−だから災害が起きてるよ、という。

 そうなんですね。さすがに100mぐらいは歩きましょうというわけで。群馬県というのは車社会なんですよ。大人一人が持っている車の所有率はたしか全国1位か2位で、東京は一番低いです。個人の運輸部門がいかに車社会になっているか。
 だから私が思うのはコンパクトシティー。コンパクトシティーになると街の中心部分に行くには鉄道やバスなどの公共交通が便利になります。都市はこれからコンパクトシティーになっていき、一度街へ行ったら大抵の用事は済ませるということになっていくといいのですが、今はあちこちの郊外に分散しています。高速料金はもっと上げていいと思います。本当に高速道路が必要な人はお金を払ってでも使います。高速を使う人は急ぐのですから、急ぐ人は渋滞を避けますよね。それならば、お金を今の2倍払っても早く移動したい。高速道路料金を2倍にすると、高速を使わなくてもいい人は電車の方が安いからとなるじゃないですか。高速道路料金を2倍にして、お金がかかっても本当に急ぐ人や高速道路を使わねばならない人は空いてる高速道路を使ってもらえばいいと思います。

−企業からすると物流の料金が上がるのかという話になるのではないでしょうか。

 急ぐ輸送と急がない輸送があります。急ぐ輸送は、お金がかかっても倍払うとなる。急がない輸送は下道を使う。2倍取ったお金をどうするかというと、そのお金で船とか鉄道の効率化、物流効率化に使えばいいと私は思います。人の移動と都市の構造、その辺を全部変えていくというのは1企業では無理です。それこそ、まさに行政の役割ですよね。

−大都市から、地域内で循環するような形に変わっていかないと、生きていけない。

 極論ですが、日本に住む人のほぼ全員が3大都市圏とまでは言いませんが、今300万人以上いる都市圏に引っ越した方が、地球にはいいんです。東京は効率がいい。東京は恐らくCO2を出していないですよ。一人当たりで換算すると一番少ないはずです。田舎は効率が悪いからCO2の排出量が多い。極論ですが、県庁所在地くらいの町に人が集まったほうがいい。その県の中心都市に凝縮されたコンパクトシティーがあった方がいいなと思います。そのかわり小さな町が不便かもしれませんが、あまりにもばらばらになってはよくないと思います。田舎というのは人数が少なければそこから出てくるCO2が少ないので、もともとそこに住んでいる方が豊かに暮らしていればそれでいいと思うんです。
 過疎化しているから田舎を活性化しようと、すぐにやってしまいがちだけれども、地域内循環にすればいいのではないかと言いますが、そう甘くないですよ。人口が増えるとCO2が出るのだから。だから、その町に住まざるを得ないという、その町に住むことを望む人は住んでいいと思いますが、無理に住んで、人口を増やす必要はないと思う。適正人口があるわけだから。
 私の意見には、多分多くの人は反対かもしれないけれど、過疎地に無理やり人口を増やすことはしなくていい。そこに住みたい人は住む必要性があると思いますが、無理やり、なにかをしなくてもいいと思うんです。住む必要がある人は農業や漁業の人がほとんどなので、そこでちゃんと得るものを得ているわけですからね。無理やり何かするよりも、もっと都市機能をしっかりさせた方が結果的にCO2を減らせる。

−これからも地球で生きていけるようにするためには。

 やはり災害と異常気象にやられないためにはね。


ゆかいに、学ぶ。それが、最大の解決策。

 最後に言いたいことがあります。教育。このような気候問題を学ぶ学問は、地理と地学です。地理は新学習要領から必修になります。地学は地震、火山、気象なので、まさに災害の多い日本人にとって学ぶべき学問。地理は世界の気候とかです。地球環境を知るためには、気候を知るためには地理と地学が大事。ヨーロッパでは、もう必修科目なんです。
 だからいかに日本では気候問題を一般の人が知らないかという、これを何とかしないといけません。これもやはり企業の問題ではないですね。行政の問題だと思います。教育問題を何とかしないと。進学校でやっていないんです。地域一番校はやっているんですよ。地域一番校じゃない学校は何とかして有名大学の入学者数を増やしたいと頑張るから、入試に関係ない科目はやらないわけです。入試にそういう風潮があるうちは駄目だなという気がします。

−12歳から17歳の子どもたちとじっくり話をしてみると、とても健やかで真っ当なんです。人のために何かしたいという意識がすごく高く、地域に貢献したいといった気持ちが強い。

 そのためにも、今地球がどうなっているのかを知る。学問は、もう20歳を過ぎたらやらないんです。私も高校や中学校などに呼ばれて地球環境の授業をすることがありますが、先生が強制的に参加させる授業は嫌なんです。自主的に集まっていいよという形だと面白がって聞くのですが、先生が無理やり集めるようでは聞いていないからね。学校の校風がよくわかりますね。この表は各県の地学開講率です。東海地方の三重県、静岡県、愛知県は低い。これではダメ。大阪は高い。車の利用率と比例しているのかもしれません。一番高いのは千葉県と教育県の長野県。教育に力を入れているということと、しっかり学びやすくしようという意識の中で県による差が大きいですね。

 好奇心だと私は思います。やはり、「気候変動=敵だ」といってもダメなんです。面白いことは徹夜しても疲れない。つまらなかったら10分でも疲れてしまう。意外性があると面白いと思うんですね。今日の話も、海というのは初めてだったと思います。冬が寒いというのも、もしかしたら温暖化が原因では?と思っていると面白い。逆張りだと面白い。
 井上ひさしさんの言葉で「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをいっそうゆかいに」と言っている。これができればなと思っています。なかなか難しいですけどね。これが正しいと思うんですよね。なかなか、私もこの境地に達していません。

 

三重大学 大学院 生物資源学研究科 教授
立花 義裕
北海道大学大学院理学研究科・地球物理学専攻 理学博士。北海道大学低温科学研究所・ワシントン大学・海洋研究開発機構等を経て、現職。専門は気象学・気候力学・異常気象・地球環境.学術的な内容を親しみやすい語り口で伝えることに定評があり、中高生への出前授業や一般向けの講演を行うほか、テレビ番組で異常気象や地球温暖化の解説も行っている。(三重テレビ『Mieライブ』、テレ
ビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」など)

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